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すそたもと
切髪は乱れ
逆竪ちて、
披払と
飄る
裾袂に
靡されつつ
漂しげに行きつ留りつ、町の南側を
辿り辿りて、鰐淵が住へる横町に
入りぬ。
盃持つ
妓女が
繊手は女学生が体操仕込の腕力なければ、
朝夕の掃除に主人が
愛玩の
什器を
損はず、
縁先の盆栽も
裾袂に枝
引折らるる
虞なかりき。世の中
一度に二つよき事はなし。
而して、
婆さんの
店なりに、お
浦の
身体が
向ふへ
歩行いて、
見る
間に
其が、
谷を
隔てた
山の
絶頂へ——
湧出る
雲と
裏表に、
動かぬ
霞の
懸つた
中へ、
裙袂がはら/\と
夕風に
靡きながら
薄くなる。