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しよざい
何処か近くの家で
百萬遍の
念仏を
称へ始める声が、ふと
物哀れに耳についた。
蘿月は
唯た一人で
所在がない。
退屈でもある。
薄淋しい
心持もする。
座が
白けて、
暫らく
言葉が
途絶えたうちに
所在がないので、
唄うたひの
太夫、
退屈をしたと
見えて
顔の
前の
行燈を
吸込むやうな
大欠伸をしたから。
遂にはそれが一つに
成つて
山々の
所在を
暗まして、
其の
末端が
油煙の
如く
空に
向つて
消散しつゝあるやうに
見え
始めた。