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しようじ
眼のふち
清々しく、涼しき
薫つよく薫ると
心着く、身は
柔かき
蒲団の上に臥したり。やや枕をもたげて見る、
竹縁の
障子あけ
放して、庭つづきに向ひなる
山懐に、緑の草の、ぬれ色青く
生茂りつ。
中がらすの
障子のうちには
今樣の
按察の
後室が
珠數をつまぐつて、
冠つ
切りの
若紫も
立出るやと
思はるゝ、その一ツ
搆へが
大黒屋の
寮なり。
霜夜ふけたる
枕もとに
吹くと
無き
風つま
戸の
隙より
入りて
障子の
紙のかさこそと
音するも
哀れに
淋しき
旦那樣の
御留守