ごろ)” の例文
このごろ著しく数を増した乗合のりあい自動車やトラック、又は海岸の別荘地に出這入ではいりする高級車の砂ホコリを後から後から浴びせられたり
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
江戸川縁えどがわべりに住んでいる啓吉けいきちは、いつものように十時ごろ家を出て、東五軒町ひがしごけんちょうの停留場へ急いだ。かれは雨天の日が致命的フェータルきらいであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すべて敵に遭ってかへってそれをなつかしむ、これがおれのこのごろの病気だと私はひとりでつぶやいた。そしてわらった。考へて又哂った。
花椰菜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
四十一ねんぐわつ二十一にち午前ごぜんごろ水谷氏みづたにしとは、大森おほもり兒島邸こじまてい訪問ほうもんした。しかるにおうは、熱海あたみはうつてられて、不在ふざん
午後三時ごろの夏の熱い太陽が、一団の灰色雲の間からこの入江を一層いっそう暑苦しく照らしていました。鳶が悠々ゆうゆうと低い空をかけっていました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
器物きぶつとしてはつごうがいことをもつたので、青銅器時代せいどうきじだいをはごろには、混合こんごう歩合ぶあひがたいていこのわりあひになつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
このごろは体がだるいと見えておなまけさんになんなすったよ。いいえ、まるでおろかなのではございません、何でもちゃんと心得こころえております。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地震直後ぢしんちよくごから大正たいしやう十三四ねんごろまでのやうに十ドル以上いじやうさがつたこともあるけれども、平均へいきんしてづ四乃至ないしさがつてると状況じやうきやうである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
長吉はふと近所の家の表札に中郷竹町なかのごうたけちょうと書いた町の名を読んだ。そして直様すぐさま、このごろに愛読した為永春水ためながしゅんすいの『梅暦うめごよみ』を思出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところが、このごろ長男の秀雄氏の結婚談が持上つてゐるので、阿母おつかさんはその披露の宴会を何処にしたものかと、今から頭痛に病んでゐる。
私はいつごろその里から取り戻されたか知らない。しかしじきまたある家へ養子にやられた。それはたしか私の四つの歳であったように思う。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
村へ着いたのはもうともしごろだった。そして、家々の戸口や窓から洩れる黄ろい光を見た時の嬉しさを、私は決して忘れることがあるまい。
前の吹込みは一九二七年ごろであり(ビクター六五一五—八)、後の吹込みはそれより約五年くらい遅れている(ビクターJD三八七—九〇)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ごろでは不廉ふれんさけ容易ようい席上せきじやうへははこばれなくつてたのでしたがつて他人たにんつたのでもみなひかにするやうつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やがて五日ごろの月は葉桜はざくらしげみからうすく光って見える、その下を蝙蝠こうもりたり顔にひらひらとかなたこなたへ飛んでいる。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まことに此のごろのデンマークは、ノーウエーとも不仲であり、いつ戦争が起るかも知れず、王位は、一日も空けて置く事が出来なかったのです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
男の愛情が如何いかに猛烈に発現しても、女は拒む事をあえてしない。このごろの夜のように、女が控え目でなく自由になっていた事は、これまでない。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
アヽ、ナニ、こねいだは大分いいよ、ぢいさまもネ、このごろは又畑へ出て、アレあすこに、人の仕事してるとこで石ツころを拾はしてもらつてまさあ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「いつかの画家さんよ……また、お会いしたわ」——彼女かのじょにそう注意をされるまでは、私はその男が、このごろ何の理由もなく私を苦しめ出している
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして二人は暗默あんもくの内にもおたがひ何物なにものかの中にぴつたりとけあつてゐるやうな、その日ごろにない甘い、しみじみした幸ふくかんをそれぞれにかんじてゐた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「このごろの人は武術で身体をねらないからいけません。それに洋食ばかりしますから、とかく故障こしょうが多くなりますよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
幹子みきこは、このごろ田舎いなかの方から新しくこちらの学校へ入ってきた新入生でした。髪の形も着物も、東京の少女にくらべると、かなり田舎染みて見えました。
大きな蝙蝠傘 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
ですから新吉は、いなかの鍛冶屋かじやにいた時分じぶんよりは、もっとまっ黒けになって、朝っから夜まで、その夜も十一時から十二時ごろまで働きつづけました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「ああ、このごろみみこえるこえぬがあってのオ。きんのはあさからみみなかはえが一ぴきぶんぶんいってやがって、いっこうこえんだった。」
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
秋の日の暮れかかるともしごろ、奈良の古都の街はずれに、骨董こっとうなど売る道具市が立ち、店々の暗い軒には、はや宵の燈火あかりが淡くともっているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
岡町をかまち中食ちうじきをして、三國みくにから十三じふそわたしにしかゝつたときは、もうなゝごろであつた。渡船とせんつてゐるので、玄竹げんちくみち片脇かたわきつて、つてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
岸本はこの珍客が火点ひともごろを選んでこっそりとたずねて来た意味をぐに読んだ。いたましい旅窶たびやつれのしたその様子で。手にした風呂敷包と古びた帽子とで。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なにか読者諸君が吃驚びっくりするような新しいラジオの話をしろと仰有おっしゃるのですか? そいつは弱ったな、此のごろはトント素晴らしい受信機の発明もないのでネ。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
この間じゅう、民さんは怠けて朝はおそく、どうかすると迎えにやっても、昼ごろにならなければ出て来なかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
... それで私が不動様を一心に念ずると其怨霊がだん/\きえなくなります。それにね、』と、母は一増ひとしお声を潜め『このごろは其怨霊が信造に取ついたらしいよ。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これは私が俳句を作りはじめた明治二十四、五年ごろから昭和十年までの中から五百句を選んだものであった。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
きみごろからだは何うかね。」としばらくして私はまた友にたづねた。私たちふとかならどツちかさきの事をく。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
どうぞ辛抱しんぼうして、話相手はなしあいてになっておくんなさいまし、——あたしゃ、王子おうじそだった十年前ねんまえも、お見世みせかようきょうこのごろも、こころ毛筋程けすじほどかわりはござんせぬ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
又の年の秋、今日ぞこのごろなどおもいづる折しも、あるふけて近き垣根のうちにさながらの声きこえ出ぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それにしてもあなたさまなんっしゃる御方おかたで、そしていつごろ時代じだい現世げんせにおうまあそばされましたか……。
實際じつさいこのごろのように地震ぢしん火災かさい噴火ふんかなどになやまされつゞきでは、かへつてはづかしいかんじもおこるのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
B あゝ、おほきにごろはいゝさうだ。最近さいきん報告はうこくれば、體量たいりやうが十二くわん三百五十もんめになつたさうだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
僕は一々彼女に向ってああしては悪い、こうしては悪いなどと云う事に草臥くたびれ始め、自分のキリキリした神経もこのごろでは少しばかり持てあまし気味でいるのだ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かれまへのやうに八きて、ちやのちすぐ書物しよもつたのしんでんでゐたが、ごろあたらしい書物しよもつへぬので、古本計ふるほんばかんでゐるせゐか、以前程いぜんほどには興味きようみかんぜぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いなといへどふる志斐しひのがひがたりこのごろかずてわれひにけり 〔巻三・二三六〕 持統天皇
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
K子さんとこのせつちやんたら、このごろでは私のいへへひとりで遊びになどるやうになりました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「あれは手放しては使いとうない。このごろ身方についた甲州方こうしゅうがたの者に聞けば、甘利はあれをわが子のように可哀かわいがっておったげな。それにむごいやつが寝首をきおった」
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いろ/\のあつ待遇もてなしけたのちよるの八ごろになると、當家たうけ番頭ばんとう手代てだいをはじめ下婢かひ下僕げぼくいたるまで、一同いちどうあつまつて送別そうべつもようしをするさうで、わたくしまねかれてそのせきつらなつた。
それから正月号は何日ごろできるでしょうか。できましたら私に五冊ほど送って下さいませんか。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
立てもいたむ事なき故友次郎は云に及ばずお花忠八もいたよろこかくては日ならず江戸へ下らるべしと猶おこたりなく看病かんびやうせしかば五日目には起居たちゐの成樣になり十日目ごろは座敷の中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もつともわたしがからつたときには、うまからちたのでございませう、粟田口あはだぐち石橋いしばしうへに、うんうんうなつてりました。時刻じこくでございますか? 時刻じこく昨夜さくや初更しよかうごろでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしには一寸努力の要することだつた。……汽車の発着のない火点ひともごろの構内で、ガランとした三和土たゝきの上に立つて、何かこれでもう考へ落した事はなかつたかと思つて見た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
このごろ外国から持込んだ色々の新語と並べて見て、ほとんと両極端と言ってもよい態度のちがいは、やがてまた近世の国語の歴史の、看過すべからざる変革を暗示するものかと思う。
「首尾よくやれば当家の名誉。諏訪家においても恩に着よう。さていつごろ出立するな?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むしなかでもばつたはかしこむしでした。このごろは、がな一にちつきのよいばんなどは、そのつきほしのひかりをたよりに夜露よつゆのとつぷりをりる夜闌よふけまで、母娘おやこでせつせとはたつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)