背負せお)” の例文
くはかついで遺跡ゐせきさぐりにあるき、貝塚かひづかどろだらけにつてり、その掘出ほりだしたる土器どき破片はへん背負せおひ、うしていへかへつて井戸端ゐどばたあらふ。
それは唯はた目には石鹸せつけん歯磨はみがきを売る行商ぎやうしやうだつた。しかし武さんはめしさへ食へれば、滅多めつたに荷を背負せおつて出かけたことはなかつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若い者の取落したのか、下の帯一筋あったを幸に、それにて牛乳鑵を背負せおい、三箇のバケツを左手にかかえ右手に牛の鼻綱はなづなを取って殿しんがりした。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それをさしおいて、道庵自身がまかり出て、米友の株を背負せおい込もうとしてもそうはゆかない。天は決して人に万能を授けるものではない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きつねは大いばりで獅子ししくび背負せおって、日本にっぽんかえってました。これが、いまでも、おまつりのときにかぶる獅子頭ししがしらだということです。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
勘次かんじ黄昏たそがれちかくなつてからひとり草刈籠くさかりかご背負せおつてた。かれ何時いつものみちへはないでうしろ田圃たんぼからはやしへ、それからとほ迂廻うくわいして畑地はたちた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし渡船は時間の消費をいとわず重い風呂敷包ふろしきづつみなぞ背負せおってテクテクと市中しちゅうを歩いている者どもにはだいなる休息を与え
全く心柄こころがらではないので、父の兼松は九歳の時から身体からだの悪い父親の一家を背負せおって立って、扶養の義務を尽くさねばならない羽目はめになったので
この評判に蹴落けおとされて春廼舎の洗練された新作を口にするものはほとんどなく、『国民之友』附録に対する人気を美妙が一人で背負せおってしまった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
つて来た風呂敷包を背負せおつて、古びた蝙蝠傘かうもりがさを持つて、すり減した朴歯ほほばの下駄を穿いて、しよぼたれたふうをして、隣の老人はいとまを告て行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
甲州街道の小間物屋のおかみが荷を背負せおって来た。「ドウもねえあなた、天道様てんとうさまに可愛がられまして、此通り真黒でございます」とほおでる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
七、八けんさきの横町よこちょうから、地蔵行者じぞうぎょうじゃ菊村宮内きくむらくないが、れいの地蔵尊じぞうそん笈摺おいずる背負せおって、こっちへ向かってくるのが見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いゝあんばいにからだいてました、うなるとよくが出てまたあがつてつゝみはす背負せお道中差だうちゆうざしをさしてげ出しました。
おじいさんは、朝家あさうちたときの仕度したくおなじようすをして、しかも背中せなかに、あかおおきなかにを背負せおっていられました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
恐らく剛力な男が、綱をかけて背負せおつた上、一人は上から綱をかけて引上げ、一人は下から棒で押して、三人くらゐの力を併せてやつたことでせう。
おせんがした菊之丞きくのじょうは、江戸中えどじゅう人気にんき背負せおってった、役者やくしゃ菊之丞きくのじょうではなくて、かつてのおさななじみ、王子おうじきちちゃんそのひとだったのだから。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そしてジャンにさしずをすると、ジャンはあぶない足どりながらピエールを背負せおっていっさんに駆け出しました。
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこへ飛行服をた一人の将校がパラシュートを背負せおったまま駆けつけて来た。そして、飛行機を見ると
人のいない飛行機 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
香料こうりょう、紙類、砂糖菓子さとうがし、ハンケチ、襟巻えりまき履物はきもの缶詰かんづめこよみ、小唄集、薬類など、いろんなもののはいってる大きなこり背負せおって、村から村へとわたあるいていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
仮定の条件をも一度変更して来てくれと云つて白川に難題を背負せおはせることは残酷な仕打とも云へる。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
一時間ばかりすると、夜が白々しらじらと明けていった。心も感情もない人造人間に背負せおわれて、どんどん広野こうやを逃げていく私たちの恰好は、全くすさまじいものに見えた。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこでその大神の髮をつてその室の屋根のたる木ごとに結いつけて、大きな巖をその室の戸口に塞いで、お妃のスセリ姫を背負せおつて、その大神の寶物の大刀たち弓矢ゆみや
そして、達二が支度したくをして包みを背負せおっている間に、おっかさんは牛をうまやからい出しました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
巨男おおおとこは大きな大理石を三つもらって、それを背負せおい、白鳥をその上にとまらして帰途きとにつきました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
海向いの村へ通う渡船は、四五人の客を乗せていたが、四角な荷物を背負せおうた草鞋脚絆わらじきゃはんの商人が駈けてきて飛乗ると、頬被ほおかぶりした船頭は水棹みさおで岸を突いて船をすべらせた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
即ち主人は、二十圓ほどを失つて、百圓ほどの借金をおきみの身に背負せおはせた勘定であつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
亡者……と書いた紙を背中に背負せおって、妙見勝三郎は神保造酒の許を訪ずれて来ているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そんなみちみち私の出遇であうのは、ごくまれには散歩中の西洋人たちもいたが、大概たいがい、枯枝を背負せおってくる老人だとかわらびとりの帰りらしいかごうでにぶらさげた娘たちばかりだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
付て海へしづめ其身は用意の伊勢參宮いせまゐり姿すがたに改め彼二しな莚包むしろづゝみとして背負せお柄杓ひしやくを持て其場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
拭き込んだ細かい柾目まさめの板が、雲斎底うんさいぞこの影を写すほどに、軽く足音を受けた時に、藤尾の背中に背負せおった黒い髪はさらりと動いた。途端に椽に落ちた紺足袋が女の眼に這入はいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にもとまらぬ電光石火、ハッと身をしずめたぼく、頭の上にブルのうでむねがのびてるやつを、そのままの背負せおいなげ! 敵の力で敵をなげる柔道じゅうどうの、これこそ術だ、みごとにきまって
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
車掌しやしやうふしを附けてうたふやうに言つたので、小池もお光も同時にハツと頭を上げて車室を見渡すと、自分たち二人ふたりほかには、大きな風呂敷包みを背負せおつた老婆が、腰を曲げてまご/\してゐるだけで
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
半日に一枚の浴衣ゆかたをしたてあげる内職をしたり、あるおりは荒物屋あらものやの店を出すとて、自ら買出しの荷物を背負せおい、あるよい吉原よしわら引手茶屋ひきてぢゃやに手伝いにたのまれて、台所で御酒のおかんをしていたり
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
左右のつばさに一本ずつ、長い羽があって垂れているのが、この背負せおわくとすこし似ていたので、だれかがたわむれにこのような名をつけたものであるが、それも江戸になってから始まったものでなく
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おほきなものを背負せおつてるやうな場合ばあひだつたからたまらない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
刈穂かりほ背負せおつた大きな火の玉をとこがをどつてゆく。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たはむれに母を背負せおひて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ことし五歳で、体に相当した襦袢じゅばん腹掛はらがけに小さな草刈籠くさかりかご背負せおい、木製の草刈鎌を持って、足柄山を踊る男の子でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たぬきはくりがほしいものですから、しかたなしにしばを背負せおって、さきってあるしました。こうの山まで行くと、たぬきはふりかえって
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
或夏の近づいた月夜、たけさんは荷物を背負せおつたまま、ぶらぶら行商ぎやうしやうから帰つて来た。すると家の近くへ来た時、何かやはらかいものを踏みつぶした。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然し渡船わたしぶねは時間の消費をいとはず重い風呂敷包ふろしきづゝみなぞ背負せおつてテク/\と市中しちゆうを歩いてゐる者供ものどもにはだいなる休息を与へ
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はまだほんのりとあかるかつたので勘次かんじはそつちこつちとから草刈籠くさかりかご背負せおつたまゝあるいた。かれれでも良心りやうしん苛責かしやくたいして編笠あみがさかほへだてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
往来おうらいあるいていると、ごろ、かおっている、むら若夫婦わかふうふたびじたくをしてきかかるのにあいました。おとこは、なにかおおきな背負せおっています。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、世界の美人を一人で背負せおって立ったツモリの美貌自慢の夫人がりに択って面胞にきびだらけの不男ぶおとこのYを対手に恋の綱渡りをしようとは誰が想像しよう。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
反対派の面々にまんまと背負せおい投げを食わされたかたちとなった自己の忿懣ふんまんよりは、それ程までにしなければ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、祝儀しゅうぎ酒手さかて多寡たかではなかった。当時とうじ江戸女えどおんな人気にんき一人ひとり背負せおってるような、笠森かさもりおせんをせたうれしさは、駕籠屋仲間かごやなかまほまれでもあろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
みちかどに来ると、大きな包みを背負せおって、古びた紺の脚絆きゃはんに、ほこりで白くなった草鞋わらじをはいて、さもつかれはてたというふうの旅人が、ひょっくり向こうの路から出て来て
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「あのね、張がほんとうに心配していることがあるんだよ。二人が自動車旅行に出て行くと二日とたたないうちに、君たちはたいへんな苦労を背負せおいこむことになるんだってよ」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「有難てえ。それぢや突出して下さるか、親分、やくざ者が三千五百石の大旗本を背負せおつて行きア本望だ。三尺高けえ木の上から上總房州を眺めて、淨瑠璃じやうるりを語つて見せるぜ、親分」
峠を下り切ったところにかかっている白い橋の上に、小さな男の子が一人、かばん背負せおったまま、しょんぼりと立っていた。私の連れ立っている子供たちがその男の子に同時に声をかけた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)