さくら)” の例文
旧字:
その子供こどもたちは、みんながしたように、このさくらしたあそびました。さくらは、はるにはらんまんとして、はないたのであります。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
阿父おとうさん、これちぎり立てのさくらなのよ。埃や毛虫の卵がくつ着いててもいけないから、一粒づつこの水で洗つて召しあがれよ。」
町が狭隘せまいせいか、犬まで大きく見える。町の屋根の上には、天幕がゆれていて、さくらかんざしを差したむすめ達がゾロゾロ歩いていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
古人はさくらを花の王と称した、世の中に絶えて桜のなかりせば人の心やのどけからましとえいじた、吾人は野に遊び山に遊ぶ、そこに桜を見る
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ときに、真先まつさきに、一朶いちださくら靉靆あいたいとして、かすみなか朦朧もうろうたるひかりはなつて、山懐やまふところなびくのが、翌方あけがた明星みやうじやうるやう、巌陰いはかげさつうつつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭のすみさくらの木のところに集まっていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
磯五のことをいうときは、さざなみのような小皺こじわの寄っている眼のまわりに、さくらいろのはじらいがのぼるのだ。うれしさを隠そうともしないのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その結果夜中になって、その男をさくらぼうの寝床から脱け出させる。うつつともまぼろしともなく彼は服を着て、家の外にとび出すのだ。一寸ちょっと夢遊病者むゆうびょうしゃのようになる
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「やあ、さくらがある。今漸やく咲き掛けた所だね。余程気候が違ふ」と云つた。話の具合が何だかもとの様にしんみりしない。代助も少し気のけた風に
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
舞台には渓流けいりゅうあり、断崖だんがいあり、宮殿きゅうでんあり、茅屋ぼうおくあり、春のさくら、秋の紅葉もみじ、それらを取り取りに生かして使える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昼過ひるすぎからすこ生温なまあたゝかかぜやゝさわいで、よこになつててゐると、何処どこかのにはさくらが、霏々ひら/\つて、手洗鉢てあらひばちまはりの、つはぶきうへまでつてる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さくらいたか、まだかぬ、はなより団子だんごでおちゃがれ、おちゃがすんだら三べんまわって煙草たばこ庄助しょうすけ
長い名 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かおはどちらかといえば円顔まるがおるからにたいそうお陽気ようきで、お召物めしものなどはいつもおもった華美造はでつくり、丁度ちょうどさくらはなが一にぱっとでたというようなおもむきがございます。
仔鹿こじかをみるとおじいさんは、さくらをひとえだって、その小さいつのにむすびつけてやりました。
里の春、山の春 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
水車の道の上へ大きな枝をひろげている、一本の古いさくらの木の根元から、その道から一段低くなっている花畑の向うに、店の名前を羅馬字ロオマじで真白にくり抜いた、空色の看板が
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
はるさらば揷頭かざしにせむとひしさくらはなりにけるかも 〔巻十六・三七八六〕 壮士某
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
谷中やなかから上野うえのける、寛永寺かんえいじ土塀どべい沿った一筋道すじみち光琳こうりんのようなさくら若葉わかばが、みちかれたまんなかたたずんだ、若旦那わかだんな徳太郎とくたろうとおせんのあにの千きちとは、おりからの夕陽ゆうひびて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
交野かたの嵐山あらしやまの春を思えばたまらない。さくらの花のなかに車をきしらせた春を思えば。つんだ花を一ぱい車の中にまいて、歌合わせをして遊んだ昔の女たちを思えば。わしはむしろ死を願う。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
春の日も午近くなれば、大分青んで来た芝生に新楓しんふうの影しげく、遊びくたびれてふたともえに寝て居る小さな母子おやこの犬の黒光くろびかりするはだの上に、さくら花片はなびらが二つ三つほろ/\とこぼれる。風が吹く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わび明日みやうにちかぜもなき軒端のきばさくらほろ/\とこぼれてゆふやみのそらかねかなし
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
太鼓たいこに、道の紅梅こうばいは散りしき、ふえにふくらみだすさくらのつぼみ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かざればさくらひとらまじをさくらあだはさくらなりけり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私たちがさくらんぼとくるみの御馳走ごちそうをならべると
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
つつみさくらわずか二三しゅほど眼界に入っていた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さくらの花をつけた森の精が出て来ました。
お月様の唄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
庭のさくらが返り咲きをしたのを見て
なんぢさくらよかへり咲かずや 芭蕉
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さくらはなてばかり。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「また、秀公ひでこうまれたむらから、日本海にほんかいちかいんだって。うみへいく道端みちばたに、はるになるとさくらいて、それはきれいだといっていたよ。」
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雪枝ゆきえみちけ、いはつたひ、ながれわたり、こずゑぢ、かつらつて、此処こゝ辿たどいた山蔭やまかげに、はじめてたのはさくらで。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七、八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭こうていすみさくらの木のところにあつまっていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
井戸は江戸時代にあつては三宅坂側みやけざかそばさくら清水谷しみづだにやなぎ湯島ゆしま天神てんじん御福おふくの如き、古来江戸名所のうちに数へられたものが多かつたが
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そんな風に考えて来るとなみだあふれて来るのである。ざあと雨のような風の音がしている。もう、この風で、最後のさくらの花も散ってしまうであろう。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
春もすでに三月のなかばである、木々のこずえにはわかやかな緑がふきだして、さくらのつぼみが輝きわたる青天に向かって薄紅うすべに爪先つまさきをそろえている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その川っぷちへ行って用を足す。ところがその辺にさくらぼうという例のストリート・ガールが網を張っているのだ。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
左右さゆうみせは悉くあかるかつた。代助はまぼしさうに、電気燈のすくない横町へまがつた。江戸川のふちた時、くらい風がかすかにいた。くろさくらの葉が少しうごいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから飲料いんりょうとしてはさくら花漬はなづけ、それを湯呑ゆのみにれて白湯さゆをさしてきゃくなどにすすめました。
そのとき私の帽子の上になんだか雨滴のようなものがぽたりと落ちて来たから。そこでその宙に浮いた手を私はそのまま帽子の上に持って行った。それは小さなさくらの実であった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのまたこうのあの山えて、この山えて、さくらいて、お山のからすが団子だんごほしいとないた、ではない、はなより団子だんごでおちゃがれ、おちゃがすんだら三べんまわって煙草たばこ庄助しょうすけさんが
長い名 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おはもじながらここもとは、そもじおもうてくびッたけ、からすかぬはあれど、そもじつかれぬ。雪駄せったちゃらちゃら横眼よこめれば、いたさくら芙蓉ふようはなか、さても見事みごと富士ふじびたえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
居ながらにして幽邃閑寂ゆうすいかんじゃくなる山峡さんきょう風趣ふうしゅしのび、渓流けいりゅうひびき潺湲せんかんたるも尾の上のさくら靉靆あいたいたるもことごとく心眼心耳に浮び来り、花もかすみもその声のうちに備わりて身は紅塵万丈こうじんばんじょうの都門にあるを忘るべし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いっぽんのさくらの木のかたに、やさしいおじいさんがいました。
里の春、山の春 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
よわったとると、学校がっこうじゅうは、たいへんなものでした。先生せんせいも、生徒せいとも、小使こづかいもみんなさくらうえ心配しんぱいしました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
トなだらかな、薄紫うすむらさきがけなりに、さくらかげかすみ被衣かつぎ、ふうわり背中せなかからすそおとして、鼓草たんぽゝすみれ敷満しきみちたいはまへに、美女たをやめたのである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
井戸は江戸時代にあっては三宅坂側みやけざかそばさくら清水谷しみずだにやなぎ湯島ゆしま天神てんじん御福おふくの如き、古来江戸名所のうちに数えられたものが多かったが
光一はお堂の前にでた。そこのさくらの下に千三が立っている。光一はかっとした。かれは野猪のじしのごとく突進した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ふりかえってみると、さくらぼうのような例の女は、白い腕をしなやかに辻永の腰に廻して艶然えんぜんと笑っていた。そして二人の姿は吸いこまれるように格子こうしの中に消えてしまった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おおきなさくらへみんな百ぐらいずつの電燈でんとうがついていた。それに赤や青のや池にはかきつばたの形した電燈でんとう仕掛しかけものそれにみなとの船の灯や電車の火花じつにうつくしかった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さくらる時分には、夕暮ゆふぐれかぜかれて、よつつのはし此方こちらからむかふわたり、むかふから又此方こちらわたり返して、長いどてふ様にあるいた。が其さくらはとくにちつて仕舞つて、いまは緑蔭の時節になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)