手柄てがら)” の例文
それより大事なことをお耳に入れて置きますが、河井龍之介を捕へた手柄てがらは、この平次ではなくて、ガラツ八の野郎で御座いますよ。
天子てんしさまはたいそう頼政よりまさ手柄てがらをおほめになって、獅子王ししおうというりっぱなつるぎに、おうわぎ一重ひとかさえて、頼政よりまさにおやりになりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わし、鷲! 竹童というやつが、自由自在につかう飛行の大鷲! おお、そいつを一つ巻きあげて、こんどの手柄てがらとしてかえろう……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵が無用の出しゃばりして、そなたの手柄てがらを殿に御披露したのが、わるかった。わけもない人魚の論などはじめて、あたら男を
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
死後しご幾年いくねんかをへて、それがはじめて舊石器時代きゆうせつきじだいであることにきまり、今更いまさらサウツオラの手柄てがら人々ひと/″\みとめるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
婚姻の原因を娘の行状に見出みいだして、これというも平生の心掛がいいからだと、口をきわめてめる、よめいる事が何故なぜそんなに手柄てがらであろうか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
後の世の人は、この母上の皇后の、いろんな雄々おおしい大きなお手柄てがらをおほめ申しあげて、お名まえを特に神功皇后じんぐうこうごうとおよび申しております。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
たとえば愛国の理想をえがくならば、戦争のとき、馬背ばはいにまたがって功名こうみょう手柄てがらをするをもってただちに理想とは称しがたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
されば竹にさへづ舌切雀したきりすゞめ、月に住むうさぎ手柄てがらいづれかはなしもれざらむ、力をも入れずしておとがひのかけがねをはづさせ、高き華魁おいらんの顔をやはらぐるもこれなり。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何んともハイしんせつに言わっせえて下せえやして、お庇様かげさまで、わし、えれえ手柄てがらして礼を聞いたでござりやすよ。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺したところで功名こうみょうにも手柄てがらにもならぬ。のぼりつめた時にも冷静になり得る竜之助、お浜の取乱した姿をにらんでいる。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父親のほうはよう見ずにあか手柄てがらをかけたいたての円髷まるまげの一方を見せながら、火鉢ひばちの火を見ていた女が怒りだした。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たか大家たいかと云はれてたさに無暗むやみ原稿紙げんかうしきちらしては屑屋くづや忠義ちうぎつくすを手柄てがらとは心得こころえるお目出めでたき商売しやうばいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
きみ遺族いぞく小穴君をあなくんなどがそれをもとめるけれど、きみほんかざれるやうなことがぼくけるものか。でもぼくはこのほんのためにたつたひとつだけは手柄てがらをしたよ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
やはり糸の細く目方めかたのかるいのを、織り出すことを手柄てがらとするようになって、今いったマハツブの笑い話などが、生まれてくることにもなったのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鶴見はいっぱしの手柄てがらでもした様子で、言葉を多くして、はずみをつけて、これだけの事を語り続けた。
(中略)世間がつとに認めてゐることを、尻馬しりうまに乗つて、屋上をくじやうおくして見たつて、なん手柄てがらにもならない
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
築地のこの界隈かいわいにはお妾新道めかけじんみちという処もある位で妾が大勢住んでいる。堅気かたぎの女房も赤い手柄てがらをかける位の年頃としごろのものはお妾に見まがうような身なりをしている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手柄てがらを立てるのが目的でなく、たゞあの女が鼻の缺けた首を眺めてほゝえむ光景を見れば済むのである。
父は左衞門茂頼もちよりとて、よはひ古稀こきに餘れる老武者おいむしやにて、壯年の頃より數ヶ所の戰場にて類稀たぐひまれなる手柄てがらを顯はししが、今は年老たれば其子の行末を頼りに殘年を樂みける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
もちろん、一大事件としてほめられたのだ。男先生はそれを、じぶんの手柄てがらのように思ってよろこび
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ねづみが「おぢさんわたいのやうないさなものをいぢめたつてあなたの手柄てがらにもなりますまい」つてつたらライオンは「ハヽヽヽなるほどさうだ」つてゆるしてやつた。
しょっぴいて引っぱたいて、一件のどろを吐かせて、みごとおいらが手柄てがらにするか? 一件とは何だ?
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
込み合う雑沓の人々も、角袖かくそで外套がいとう手柄てがらをかけた日本髷にほんまげや下町風の男女が、目立って交っていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なるほど、ってきた。えらいものだ。」と、おとうさんは、まず、その手柄てがらをほめられました。
ごみだらけの豆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
川音清兵衛かわおとせいべえ、今日こそ手柄てがらをたてんものと、いつも先陣せんじんに馬をかけさせていたが、このときうしろの小高い山かげから、ど、ど、どと、山くずれのような地ひびき立てて
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
赤い手柄てがら丸髷まるまげに結つてゐたが、その白い襟脚のあたりが、小刻みにぶる/\震へ戦いてゐた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「さればサ。功名こうみょう手柄てがらをあらわして賞美を得た話は折々あるが、失敗した談はかつて無い。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
社員しやゐん充満みちみちていづれも豪傑然がうけつぜんたり、機会ときにあたれば気は引立ひきたつものなり、元亀げんき天正てんしやうころなれば一国一城のぬしとなる手柄てがらかたからぬが、きしつゝみ真黒まつくろ立続たちつゞけし人も豪傑然がうけつぜんたり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
けれども、それには何か手柄てがらをしなければいけない。三日の間猶予ゆうよをしてやるから、そのうちによいことをして私の家へ来なさい。そしたら、この二人と仲直りをさしてあげよう。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
みち出合であ老幼らうえうは、みな輿けてひざまづく。輿なかではりよがひどく心持こゝろもちになつてゐる。牧民ぼくみんしよくにゐて賢者けんしやれいするとふのが、手柄てがらのやうにおもはれて、りよ滿足まんぞくあたへるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
つぐなうだけの手柄てがらはさせますから、それまではどうか秘密にしてあげてください
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし山形君は、えらい手柄てがらを立てました。これで私も、鼻が高いというものです
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今まで勘太郎をはずかしめた村中の人たちは、これを見て勘太郎の前にみんな両手をついてあやまり、勘太郎のえら手柄てがらをほめた。そして勘太郎を一番強い偉いものとしてあがめたてまつった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
まねき相談に及ぶうち若松屋わかまつやきん竹本君太夫たけもときみたいふならびに瀬川の母も駈來かけきた皆々みな/\樣子やうすを聞て天晴あつぱれ手柄てがらなりとよろこびしがつれの二人をにがしたること口惜くちをしと云に半左衞門はんざゑもん否々いや/\事故わけもなくころさばつれの二人が一
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それでもばしてからしちながれだなんち味噌みそたるつたな、麩味噌ふすまみそ佳味うまかねえがいまぢやそんでもおつけへるこたへんのよ」卯平うへい自分じぶん手柄てがらでもかたるやうないひかたであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今年こそ白いのをうんととって来て手柄てがらを立ててやろうと思ったのです。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
折角せっかくの功名手柄てがらも世間の見るところにて光を失わざるを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ながらくらえなかった武田伊那丸たけだいなまる、またふたりの者まで、一もう召捕めしとり得たのは、いつにかれのうったえと、そちの手柄てがらじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金内は、おのれの手柄てがら矢鱈やたら吹聴ふいちょうするような軽薄な武士でない。黙って微笑ほほえみ、また前のように腕組みして舷によりかかってすわっている。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もう二十歳はたちにもなつて、大丸髷おほまるまげの赤い手柄てがらが可笑しい位なお靜が、平常ふだん可愛がられ過ぎて來たにしても、これは又あまりに他愛たわいがありません。
この曾婆加里そばかりめは、わしのためには大きな手柄てがらを立てたやつではあるが、かれ一人からいえば、主人を殺した大悪人である。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
けれども、脊恰好せいかっこうから、形容なりかたち生際はえぎわの少し乱れた処、色白な容色きりょうよしで、浅葱あさぎ手柄てがらが、いかにも似合う細君だが、この女もまた不思議に浅葱の手柄で。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるとき宰相さいしょうは、天子てんしさまの御用ごようつとめて手柄てがらてたので、ごほうびに大和やまと河内かわち伊賀いがの三箇国かこくいただきました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そうしてかれらは、それを冒険だとも、手柄てがらだとも思っていない。かえってその冒険よりも、熊一頭の所得を偉大なものだと信じていることを不思議がる。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わかい漁師は、赤い手柄てがらをかけた女房を引っ抱えるようにして裏口に出たが、白いきばき出して飛びかかって来た怒濤どとうき込まれて、今度気がいた時には
月光の下 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三度みたび教師となって三度追い出された彼は、追い出されるたびに博士よりも偉大な手柄てがらを立てたつもりでいる。博士はえらかろう、しかしたかが芸で取る称号である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ならば手柄てがらにその白刃しらはをふりかざして、法師のうしろに従うた聖衆しょうじゅの車馬剣戟と力を競うて見るがよいわ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またこれに類する話であるが、われわれがしばしば出会わすことは自分の勝った手柄てがら自慢話である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)