ひらき)” の例文
すると、軽く膝をいて、蒲団ふとんをずらして、すらりと向うへ、……ひらきの前。——此方こなたに劣らずさかずきは重ねたのに、きぬかおりひやりとした。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人の一声 それからその美人が門口の紐でくくってあるテントのひらきを明けてこっちへ進んで来てその犬を一声叱り付けますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
驚いたやうに引返して行くお志保の後姿を見送つて、軈て省吾を導いて、丑松は本堂のひらきを開けて入つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ひさしぶりで、うしてかせたまゝ、りの小間使こまづかひさへとほざけて、ハタとひらきとざしたおとが、こだまするまでひゞいたのであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
久しぶりで、うして火を置かせたまゝ、気に入りの小間使さへ遠ざけて、ハタとひらきとざした音が、こだまするまで響いたのであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瞳を上げる、鼻筋が冷く通って、片頬かたほにはらはらとかかる、軽いおくれ毛を撫でながら、しずかひらきを出ました。水盤の前に、寂しく立つ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほら、ひらきも少しいていますわ。——先生ね、あなたね、少し離れた処で、そっと様子を見ていて下さい。……後生ですから。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言ったのに応じて、唯今、と直ぐに答えたのであるが、ひらきの事だろう? その外廊下に、何の沙汰さたも聞えないは、待て、そこではなさそう。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながら、のまゝ、ひらきける、と小児こどもせなに、すそ後抱うしろだきにして彫像てうざうたけつて、まげが、天井裏てんじやううらたかところえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
振離ふりはなすと、ゆかまで落ちず、宙ではらりと、影を乱して、黒棚くろだなに、バツと乗る、と驚駭おどろき退すさつて、夫人がひたと遁構にげがまへのひらきもたれた時であつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
振離ふりはなすと、ゆかまでちず、ちうではらりと、かげみだして、黒棚くろだなに、バツとる、と驚駭おどろき退すさつて、夫人ふじんがひたと遁構にげがまへのひらきもたれたときであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ねえさん、』と仰向あふむくとうへから俯向うつむいてたやうにおもふ、……廊下らうかながい、黄昏時たそがれどきひらききはで、むら/\とびんが、其時そのときそよいだやうにおもひました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おやとおもふと、灰色はひいろひらきいて、……裏口うらぐちですから、油紙あぶらがみなんからかつた、廊下らうかのつめに、看護婦かんごふつて、ちやう釣臺つりだい受取うけとところだつたんですつて。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とやっと根こそぎにへやを離れた。……ひらきうしろざまに突放せば、ここが当やかたの関門、来診者の出入口で、建附に気をけてあるそうで、刎返はねかえって、ズーンと閉る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あしすそへ、素直まつすぐそろへたつきり兩手りやうてわきしたけたつきり、でじつとして、たゞ見舞みまひえます、ひらきくのを、便たよりにして、入口いりくちはうばかり見詰みつめてました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
石鹸シャボンを巻いた手拭てぬぐいを持ったままで、そっと階子段はしごだんの下へ行くと、お源はひらき附着くッついて、一心に聞いていた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さっきから電燈でんきで照らしたほど、室内の見当はよく着けていたので、猶予ためらいもせず、ズシンと身体からだごとひらきの引手に持ってくと、もとより錠を下ろしたのではない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無人ぶにんで失礼。さあ、どうぞ、と先方さき編上靴あみあげぐつで手間が取れる。主税は気早に靴を脱いで、癇癪紛かんしゃくまぎれに、突然二階へ懸上る。段の下のひらきの蔭から、そりゃこそ旦那様。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「では、——ちょっと、……掃除番の目ざとい爺やが一人起きましたから、それに言って、心得さす事がありますから。」と軽くやわらかにすり抜けて、ひらきの口から引返す。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬に乗ったいきおいで、小庭を縁側えんがわ飛上とびあがって、ちょん、ちょん、ちょんちょんと、雀あるきにひらきを抜けて台所へ入って、おへッついの前を廻るかと思うと、上の引窓ひきまどへパッと飛ぶ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘を連れて、年配の出方が一人、横手のとおりの、竹格子だね、中座のは。……ひらきをツイと押して、出て来て、小さくなって、背後うしろの廊下、おきまりだ、この処へ立つ事無用。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
用を聞いて、円髷まげった女中が、しとやかにひらきを閉めてったあとで、舟崎は途中も汗ばんで来たのが、またこうこもったので、火鉢を前に控えながら、羽織を脱いだ。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
便所かわやがあるのだが、夫人が寝たから、大廻りに玄関へ出て、鞠子のおさんの寝たすそを通って、板戸を開けて、台所だいどこの片隅のひらきから出て、小用をして、手を洗って、手拭てぬぐいを持つと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もの音がしていたが、すぐその一枚のひらきから、七十八の祖母が、茶盆に何か載せて出た。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちら/\ゆき晩方ばんがたでした。……わたくしは、小児こども群食むらぐひで、ほしくない。両親りやうしん卓子ていぶる対向さしむかひで晩飯ばんめしべてた。其処そこへ、彫像てうざうおぶつてはいつたんですが、西洋室せいやうまひらきけやうとして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばらくして、大分しずまった時だった。幕あきに間もなさそうで、急足いそぎあしになる往来ゆききの中を、また竹のひらきからひょいと出たのは、娘を世話した男衆でね。手に弁当を一つ持っていました。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの………ひらきの、お仕置場らしい青竹の矢来やらいの向うに……貴女等あんたたち光景ようすをば。——
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お孝は黒繻子くろじゅすの襟、雪のはだ、冷たそうな寝衣ねまきなりで、裾をいて、階子段はしごだんをするすると下りると、そこに店前みせさき三和土たたきにすっくと立った巡査に、ちょっと目礼をして、長火鉢の横手のひらき
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぴつたりめたふすままい……臺所だいどころつゞくだゞつぴろ板敷いたじきとのへだてる……出入口ではひりぐちひらきがあつて、むしや/\といはらんゑがいたが、年數ねんすうさんするにへず、で深山みやまいろくすぼつた、引手ひきてわき
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
實家さとの、母親はゝおやあねなんぞが、かはる/″\いててくれますほかに、ひらきばかりみつめましたのは、人懷ひとなつかしいばかりではないのです……つゞいて二人ふたり三人さんにんまで一時いちどきはひつてれば、きつそれ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぴったり閉めた襖一枚……台所へ続くだだっ広い板敷とのへだてになる……出入口ではいりぐちひらきがあって、むしゃむしゃといわの根に蘭を描いたが、年数さんするにえず、で深山みやまの色にくすぼった、引手ひきてわき
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこにもう一枚ひらきがあって閉まっていた。そのなかが湯どのらしい。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)