鴛鴦えんおう)” の例文
春宵の夢魂、まだ醒めやらぬ顔して、董卓は、その巨躯を、鴛鴦えんおうしょうに横たえていたので、唐突な彼の跫音に、びっくりして身を起した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山県公の前夫人は公の恋妻であったが二十有余年の鴛鴦えんおうの夢破れ、公は片羽鳥かたわどりとなった。その後、現今の貞子夫人が側近そばちこう仕えるようになった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昔の鴛鴦えんおうの夢の跡の仏の御座みざになっている帳台が御簾越しにながめられるのも院を物悲しくおさせすることであった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そんな忠告をしたところでとても聴き入れる恒川ではないし、又、鴛鴦えんおうの如き二人の様子を眼の前にしては、彼等に逆らふやうなことを切り出せる筈のものでもなかつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
或る時は小唄音曲を人形に聴かせ、或る時は鴛鴦えんおうの如く押し並んで、喃々と語り明かしました。
お神さんにもすすめていっしょに読ませているらしく、昼の食事を運んでいくと机の上にひろげられた一冊の本へ夫婦が鴛鴦えんおうのように肩を並べて睦じく目を落としていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その妻から与えられた黄金をつぶてとして池の鴛鴦えんおうほうったので始めて黄金の貴重なことを知らされ、これがそんなに貴いものなら俺の炭を焼く山の谷川には幾らでもあるというお極りの譚の筋で
刺して鴛鴦えんおうに到ってたましいたんと欲す
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
さあそれからは、ここを痴戯ちぎの池として、鴛鴦えんおうの濡れ遊ばない日はなかった。西門慶も熱々あつあつに通ってくるが、むしろ金蓮こそ今は盲目といっていい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新家庭の林家りんけには、あれからというもの、何か気味のよくない暗影に忍び入られて、あわれ鴛鴦えんおうの夢も、しばしば姿の見えぬ魔手におびやかされ通していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく唐宋とうそうの詩人などが歌いあげている——比翼ひよくのちかいとか、同穴どうけつのちぎり、鴛鴦えんおうむつみ——などという言葉にあたる永遠をかけた不変の愛とは、つまり遊戯の中にはないものである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも実物の王よりは柴進のほうが、くつの運びまでが立派であった。東華門、正陽門の二衛府えふを通ると、内裏だいりもいわゆる鳳闕ほうけつのまぢかで、瑠璃るりのかわら、鴛鴦えんおう(おしどり)の池のさざなみ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)