餅菓子もちがし)” の例文
生菓子なまがし蒸菓子むしがしというような名まえは、上方かみがたから西の子どもは知らなかった。餅菓子もちがしというと餅と菓子と、二つをならべたもののように思っていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お鶴(下女)が行って上げると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子もちがし焼芋やきいもを買って来て、御馳走ごちそうしてよ。……お鶴も笑っていましたよ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
大観音おおがんのんそばに間借をして自炊じすいしていた頃には、よく干鮭からざけを焼いてびしい食卓に私を着かせた。ある時は餅菓子もちがしの代りに煮豆を買って来て、竹の皮のまま双方から突っつき合った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おばあさま。きょうは、お好きな餅菓子もちがしを見つけてまいりましたのよ。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
食物はどうしたかと問うと、にぎめし餅菓子もちがしなどたべた。まだたもとに残っているというので、出させて見るにみなしばの葉であった。今から九十年ほど前の事である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「一さんは犬みたいよ」と百合子がわざわざ知らせに来た時、お延はこの小さい従妹いとこから、彼がぱくりと口をいて上から鼻の先へ出された餅菓子もちがしに食いついたという話を聞いたのであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
泥ぼっかいの中をあるかせたり、手も洗わずに餅菓子もちがしを食べさせたりするのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こう云った百合子は年上の二人と共に声をそろえて笑った。そうしてはかまも脱がずに、火鉢ひばちそばへ来てその間にすわりながら、下女の持ってきた木皿を受取って、すぐその中にある餅菓子もちがしを食べ出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを何ぞや小児が餅菓子もちがしを鑑定するように、いたずらに皮相の色彩に誘惑せられて、選択は当を失するのみならず、ついに先生のいかりを買うに至っては、翡翠かわせみ無智浅慮むちせんりょまことあわれむにえざるものがある。