風邪気かぜけ)” の例文
甲州在陣中、何か生理的に鬱屈うっくつしていたものが、はじめて発散したように快適を覚えた。風邪気かぜけの微熱が除かれたように軽々した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は自分の風邪気かぜけの事を一口も細君にいわなかった。細君の方でも一向其所そこに注意していない様子を見せた。それで双方とも腹の中には不平があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紋羽二重もんはぶたへ肉色鹿子にくいろがのこを掛けたる大円髷おほまるわげより水はるばかりに、玉の如きのどを白絹のハンカチイフに巻きて、風邪気かぜけなどにや、しきり打咳うちしはぶきつつ、宮は奥より出迎に見えぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
風邪気かぜけで熱のある頭の重たさに悩んでいたのだが、そんな気持は消えてしまって、はげしく動悸どうきのする胸を押えてたたずんでいた。彼の頭には、下敷になった二人の事ばかりが渦巻うずまいていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「先生は風邪気かぜけでおやすみですから……どうですかうかがってみましょう」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
或時おさま風邪気かぜけだといって寝ていらっしゃいました。下のお部屋です。そっと顔を出して、「いかがです」といいましたら、目くばせをなさるので、その方を見ますと、鳩が二羽来ています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
『——ね、いっその事、二階へあがって、お話しなさいな。右衛門七は、きょうはすこし、風邪気かぜけだと云って、草双紙くさぞうしなんか読んで退屈しているんですから』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あによめ風邪気かぜけなので、彼女が代理として饗応もてなしの席に出たら、Hさんが兄といっしょに旅行する話を始めたと告げた。彼女は喜ばしそうな調子で、自分に礼を述べた。父からもよろしくとの事であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先生が風邪気かぜけなんで……」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「きのうから、お風邪気かぜけだそうで、こもっておられるとか、伺いましたが」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四、五日前、栃木とちぎあたりの峠で豪雨にあい、それから後、少しからだが気懶けだるい。風邪気かぜけなどというものは知らなかったが——なんとなくこよいは夜露がものいのである。藁屋わらやの下でもよい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどおやじさんは風邪気かぜけで寝ているし、ばあさんは着物がないとかあるとか、行きつけない警察を億劫おっくうがってまだ取りに行かずにいるので——もしお客様がそう御覧になりたいというならば
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云い、誰が風邪気かぜけ、誰が病気といえば、すぐてまわる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「てまえは御親類の米野の七郎兵衛どのの知合でござる。七郎兵衛どのの御案内で参る約束でござったが、生憎と、その七郎兵衛どのがお風邪気かぜけとやらのため、不勝手ながら、一人でお招きへ寄せてもらいに参った」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お風邪気かぜけで——」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)