頓間とんま)” の例文
車を下りて歩かうにも、足駄のたけが立たない。腹は立つし、気は焦々するし、車夫の頓間とんまを罵つて見たが何うも仕方がない。
初冬の記事 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
何にも知らない獲物は、平気で頓間とんまな顔付きをしながら、ノソノソ、ノソノソとだんだん落しに近づいて来る……。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかるにこれらの大奸賊といふものに、なつてくれば、なかなか公然と張つてある法網に触れて、監獄といふ、小さな箱の中へ這入るやうな、頓間とんまな事はしない。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
その四五人のうちの一人が、グッとこっちをにらみかえしたのを見ると、彼は、周章あわてて入口の扉のうちに、姿を隠した。その頓間とんま男も、どこかで、見た男だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「結構すぎるぐらいですよ、お品さん、大の男の、あまりはしっこそうなのは、かえって相手に用心させるから、私はガラッ八ぐらいな頓間とんまな顔をしたのが欲しいんだ」
却々なかなかもって、八さん熊さんと同列に落語の中の人物になるような頓間とんまな飲み方はしないのである。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
頓間とんま。間抜け。トンチキ。これあ潜水艇じゃねえやい……何という恥曝はじさらしだ。これあ……」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何処かにおどけた頓間とんまな処があって、容易に人を掴まえることが出来ません。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それなら——ああ、心配致しました。この婆め、頓間とんまで、いつも——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
なつかしいと思ふこともあつたり、みじめな目にあつてゐるであらうと思ふこともあつたりすることはあるが、彼はすぐに気がたかぶつて、あの事がすつかり露顕ばれてしまふ様になつた良人をつと頓間とんまさを思ひ返しては
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「何しろ頓間とんまだね。」
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
………僕はね、文造、若し卑怯な事をしてもいゝ積りなら、お前にこんな話をしないで黙つて約束を破つてしまふよ。若しも僕がいつもの不良少年で居るなら、こんな頓間とんまな事はしやあしないよ。