いえ)” の例文
「五貫目玉を、五十丁の先まで射出うちだして、的の黒星を打ち抜く火薬は、日本広しといえども、作り手はたった一人しか無い、それは——稲富——」
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
江戸広しといえども、市に売る者なし、家に織る者なし。学者書生の如きもその行く所を知らず、大都会中た一所の学校を見ず、一名の学士に逢わず。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この冀望たる、余が年来の志望にして、つねに用意せし所なりといえども、その事の大にしてかたきや、未だこれを全うするの歩を始むるを得ず、荏苒じんぜん今日に至れり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
しかして其由来する所をたずぬれば、多くは自ら招くものなれど、事ここに至りては自ら其非をさとるといえども、其非を改むる力なく、或は自暴自棄となりてますます悪事を為すあり
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
これによってこれを観れば杜若をショウガ科のハナミョウガにてた貝原益軒の意見は、それはあたらずといえども遠からざる説ではあれどしかし益軒の卓見が窺い知られる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
諸君は今日の形勢を見て如何いかがの観をすや、東軍西軍あい戦うならんといえども、畢竟ひっきょう日本国内の戦争にしてただれ内乱なるぞ、我輩は文を事としてその戦争に関するなしと雖ども
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「何を言われるのです。本気でそんな事をおっしゃるなら、園田氏といえども許しませんぞ」
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
吾人は未だこれが花を見ずといえども、その状けだし必ずホウライチクの如くなるべし。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それ、一滴の雨水もあつまれば大洋を成し、一粒の土砂も合すれば地球を為す。余が力、微々なりといえども、熱心してこれを久しきに用うれば、又あるいは積て世に利益する所あらん乎(謹聴、喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
金座銀座のかしらは、今日の日本銀行総裁のような非常に見識があったもので、勘定奉行といえども、滅多に指を差すわけに行かず、し調べた上で、不正の貯蓄が見当らないとなると
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
切らせてはならぬ。幾之助さえ助かれば仔細は無い、重ねて申してはならぬぞ、ただ、膳部係の者によく申聞けて、余人の立入たちいるのを許してはならぬ。女子供といえども油断は禁物だぞ
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「如何なる悪魔化性けしょうの者といえども、私のいのりに退散しないという事は無い」
あの金は細民の膏血こうけつを絞った因縁のある金で、一銭といえども無駄には出来ないのです。せめて元金の何割でも何分でも、出来るだけ多く、気の毒な預金者達に返してやらなければならなかったのです。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)