せま)” の例文
伯夷量何ぞせまきというに至っては、古賢の言にると雖も、せいせいなる者に対して、忌憚きたん無きもまたはなはだしというべし。擬古ぎこの詩の一に曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
而も此のせまい所に鉄の棒や歯の附いた車の様な物が所々に突き出て居る、云わば一種の機械工場とも云う可き光景なのだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
雪渓の下には幾所にか瀑布があるらしく、瓢箪の腰のようにくびれたせまい口から箒の掃き目のような痕を印した雪の瀑をドッとなだれ落している所が此処かしこにある。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
『逸氣神州をせましとし、乃ち五州を窮めんと欲す。憐むべし蹉跌の後、一室に孤囚となる』
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
人間と人間との特殊な交渉より外には何物もないせまくて窮屈な小い部屋のなかに住みなれて来た彼女に取つては、際限はてしもない青空を仰ぐことすらが、限りない驚異でもあり喜悦でもあつたが
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
尼崎水道の蘆外だの、淀川堤の下だの、しまいには、せまい田舎道へはいり込んでしまう。「通れる。先へ」「さあ?」「どこか、道がないかなあ。いい道が」こんなに道に払底した日もない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家は以前に比べるとせまかったのであろう。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道衍どうえんは豪傑なり、孝孺は君子なり。逃虚子とうきょしは歌って曰く、苦節かたくすべからずと。遜志斎そんしさいは歌って曰く、苦節未だ非とす可からずと。逃虚子は吟じて曰く、伯夷量はくいりょう何ぞせまきと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せまいその横町には、こまごました食物屋が、両側に軒を並べていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道衍の卓敬に対する、衍の詩句をりて之を評すれば、道衍りょう何ぞせまきやと云う可きなり。しかるに道衍の方正学ほうせいがくに対するはすなわおおいに異なり。方正学の燕王にけるは、実にあいれざるものあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)