陽溜ひだま)” の例文
一朶いちだの白雲が漂うかのような法然の眉、のどかな陽溜ひだまりを抱いている山陰やまかげのように、ひろくて風のないそのふところ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫妻はどちらも白髪しらがになっていて、着ぶくれた躯の背をまるくし、陽溜ひだまりでせっせと割り竹をさばいていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庭の一所に陽溜ひだまりがあって、そこだけ雪がとけていて、笹の葉が微風に揺れている。その側の梅の古木の根もとを、みそさざいが一羽行ったり来たりしている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
江戸の街はまだ屠蘇とそ機嫌で、妙にソハソハした正月の四日、平次は回禮も一段落になつた安らかな心持を、其陽溜ひだまりに持つて來て、ガラツ八の八五郎を相手に無駄話をして居ると
杖の上に白髯はくぜんあごを乗せている老翁や、心おぼえに筆写している書生風なのや、女や労働者や物売りやら、なんとも雑多な陽溜ひだまりのにおいがれ立っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫妻はどちらも白髪しらがになっていて、着ぶくれたからだの背をまるくし、陽溜ひだまりでせっせと割り竹をさばいていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は春の陽溜ひだまりにとぐろを巻きながら、相変らず気楽なことを言っているのです。
足利の領下でも、わけて飢饉年ききんどしなどには、痩せ馬なみに市で売られる子が野菜籠の中や陽溜ひだまりの辻に、群れとなって曝されるのはめずらしいことではなかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく晴れた二月の晝下り、今朝の寒さは忘れてしまつたやうな、南縁の陽溜ひだまりに煙草盆を持出して、甲羅かふらを温ためながら、浮世草紙などを讀んでゐる、太平無事の平次の表情でした。
「あの崖下は陽溜ひだまりで暖かいんでしょう、撫子なでしこも咲いていましたよ」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
麦餅ばくへいが食いたいな」と食慾をつぶやいたりして、陽溜ひだまりに、くるま座を作って、談笑していた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脅かすやうなことは、何一つありやしませんよ、長者丸の田圃の上には、白い雲がふんわり浮いて、水田の中の陽溜ひだまりには、蛙の玉子が一パイ、——あとは何んにもありやしませんよ
その門前には、造花の蓮華れんげだの、白張しらはり提灯ちょうちんだのが出ていて、小紋の短か羽織を着た田舎人いなかびとだの、編笠をかぶった紋服の人々だのが、大勢、陽溜ひだまりの往来に佇立たたずんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脅かすようなことは、何一つありゃしませんよ、長者丸の田圃の上には、白い雲がふんわり浮いて、水田の中の陽溜ひだまりには、蛙の玉子が一パイ、——あとは何んにもありゃしませんよ
江戸の街はまだ屠蘇機嫌とそきげんで、妙にソワソワした正月の四日、平次は回礼も一段落になった安らかな心持を、そのまま陽溜ひだまりに持って来て、ガラッ八の八五郎を相手に無駄話をしていると