闊葉樹かつようじゅ)” の例文
そして、湿っぽい林道の両側には熊笹くまざさやぶが高くなり、熊笹の間からは闊葉樹かつようじゅが群立して原生樹林帯はしだいに奥暗くなっていった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
雨季うき乾季かんきとよりほか、季節と言うものを知らぬ此の風土では、植物の営みも自ずと無表情になるものらしかった。樹はおおむね闊葉樹かつようじゅである。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
画面の左上のほうに枝の曲がりくねった闊葉樹かつようじゅがある。この枝ぶりを見ていると古い記憶がはっきりとよみがえって来て、それがかしわの木だとわかる。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのじぶん上野公園から谷中の墓地へかけては何千本という杉の老木が空をついて群立むらだち、そのほかにもしいかし、もち、肉桂にっけいなどの古い闊葉樹かつようじゅが到る処繁ってたので
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
ほとんど全部闊葉樹かつようじゅであって、たいていは一かかえから二かかえ近い大木である。背の高いアメリカの三階建の家よりも、もっと高いところまでこずえが美事に繁っている。
ウィネッカの秋 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ところがそのへん、ふもとゆる傾斜けいしゃのところには青い立派りっぱ闊葉樹かつようじゅ一杯いっぱいえているでしょう。あすこは古い沖積扇ちゅうせきせんです。はこばれてきたのです。割合わりあい肥沃ひよく土壌どじょうを作っています。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのとき、カラスたちは下におりはじめました。すると、いままで大きなじゅうたんに見えていたものは、じつは、緑の針葉樹しんようじゅや、葉のない褐色かっしょく闊葉樹かつようじゅしげっている地面だったことがわかりました。
街までは五マイルくらいあり、その間ずっと、椴松とどまつ闊葉樹かつようじゅとがまばらに立っている原野がつづいている。この人手の全然はいっていない原野の中に、道路だけは非常に立派に出来ていた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
闊葉樹かつようじゅの原生林はあかや黄の葉に陽が射して、炎のように輝いていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
葉の落ちた闊葉樹かつようじゅはもちろんのこと、雪におおわれた針葉樹にも、緑の色は全然見られない。この一点の緑もない世界、満目まんもくただ灰色一色の世界では、食糧の不安感が、ひしひしと人の心に迫る。