閑寂かんじやく)” の例文
口に経陀羅尼きやうだらにの法文をじゆして、夢にも現にも市鄽してん栄花えいぐわの巷に立入ること無く、朝も夕も山林閑寂かんじやくの郷に行ひ済ましてあるべきなり。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ソーンフィールドも好きです、その古風こふう閑寂かんじやくさ、古い、からすの木や枳殼からたちの木、灰色の建物たてものの正面、また鋼鐵色の空をうつす暗い窓の線などもね。
すべてがあつさにつかれたやうでむしきはめて閑寂かんじやくにはのぞいては、かげながら段々だん/\けつゝふとりつゝしりへそしてどつしりとえだからさがつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一とたび鐘の音にかき亂された闇は、元より靜かな閑寂かんじやくさに返つて、町の遠音とほねも死んだやう。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
二羽も三羽もこの閑寂かんじやくな梅林へ來て遊んだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
閑寂かんじやくな春晝は、一ぺんにその靜けさを掻き破られて、引釣つたやうな聲、あわたゞしい足音、淺嘉町の一角が、人から人へ、家から家へと、波打つやうに不安と恐怖を傳へて行くのです。
亡くなつた主人の祐玄は、女房に死に別れた淋しさを忘れるために、一日の半分は此處へ引込んで、お茶を立てたり、物の本を讀んだり、まことに閑寂かんじやくな、おこなひすました暮し方をして居るのでした。
平次はさう言つて、二三日はもとの閑寂かんじやくな生活に還るのでした。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
閑寂かんじやくな秋の日です。