長閑のどけ)” の例文
折しも小春の空長閑のどけく、斜廡ひさしれてさす日影の、払々ほかほかと暖きに、黄金丸はとこをすべり出で、椽端えんがわ端居はしいして、独り鬱陶ものおもいに打ちくれたるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
揃って、むらはげ白粉おしろいが上気して、日向ひなたで、むらむらと手足を動かす形は、菜畠なばたけであからさまに狐が踊った。チャンチキ、チャンチキ、田舎の小春の長閑のどけさよ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐうしろの寺の門の屋根やねにはすゞめつばめが絶えなくさへづつてゐるので、其処此処そここゝ製造場せいざうば烟出けむだしが幾本いくほんも立つてゐるにかゝはらず、市街まちからは遠い春の午後ひるすぎ長閑のどけさは充分に心持こゝろもちよくあぢははれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その次に弟渡れば兄もまた揺がぬように抑えやり、長者は苦なく飛び越えて、三人ともにいと長閑のどけくそぞろに歩むそのうちに、兄が図らず拾いし石を弟が見れば美しき蓮華の形をなせる石
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けふも日影ひかげ長閑のどけさに
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
年順なれば兄先づ渡る其時に、転びやすきを気遣ひて弟は端を揺がぬやう確と抑ゆる、其次に弟渡れば兄もまた揺がぬやうに抑へやり、長者は苦なく飛び越えて、三人ともにいと長閑のどけそゞろに歩む其中に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)