銀燭ぎんしょく)” の例文
いつか、華雲殿げうんでんの廻廊には、り燈籠が星をつらね、内は無数の銀燭ぎんしょくにかがやいて、柳営お抱え役者の“田楽十番”もいま終った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに並んだのは、美酒と佳肴かこうと数十基とも知れぬ銀燭ぎんしょくと、そして、十二三から二十五六までの一粒りの美女が二十人ばかり。
卓上の銀燭ぎんしょく青烟せいえんき、垂幕すいばくの金糸銀糸は鈍く光って、寝台には赤い小さな机が置かれ、その上に美酒佳肴かこうがならべられて、数刻前から客を待ち顔である。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
広間の中央、床柱を背にして、銀燭ぎんしょくの光を真向に浴びながら、どんすの鏡蒲団かがみぶとんの上に、ったりと坐り、心持脇息きょうそくに身をもたせているのは、坂田藤十郎であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夕暮となりよいとなり、銀燭ぎんしょくは輝き渡りて客はようやく散じたる跡に、残るは辰弥と善平なりき。別室にさかなを新たにして、二人は込み入りたる談話はなしに身を打ち入れぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
金屏きんびょうを背に、銀燭ぎんしょくを前に、春の宵の一刻を千金と、さざめき暮らしてこそしかるべきこのよそおいの、いと景色けしきもなく、争う様子も見えず、色相しきそう世界から薄れて行くのは
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そもいったいどうしたというのでありましたろう! 第一に目を射たものは、そこの銀燭ぎんしょくきらめく大広間の左右に、ずらりと居並んでいる、無慮五十人ほどにも及ぶ花魁群の一隊でした。
友禅ゆうぜんの模様はわかる、金屏きんびょうえも解せる、銀燭ぎんしょく耀かがやきもまばゆく思う。生きた女の美しさはなおさらに眼に映る。親の恩、兄弟の情、朋友の信、これらを知らぬほどの木強漢ぼっきょうかんでは無論ない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藤吉郎は、そこの銀燭ぎんしょくのまたたきをちらと、眼のすみから見た。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)