野衾のぶすま)” の例文
暗闇の多い坂上の屋敷町は、私をして若い女や子供が一人で夜歩きするとどこからか出て来て生き血を吸うという野衾のぶすまの話を想い起させた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
最初に出て来たのは一つ目小僧、フラリフラリと提灯ちょうちんを下げてすれ違うと、頭の上から野衾のぶすまがバサリと顔を撫でます。
首尾しゅびよくゆけば、この機会きかい大禄たいろくで家康にめしかかえられそうだし、まずくゆくと、またぞろ、ていよくいはらわれて、もとの野衾のぶすまに立ちかえらなければならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手届きて人の奪うべくもあらねば、町の外れなる酒屋のくら観世物みせもの小屋の間に住めりと人々の言いあえる、恐しき野衾のぶすまの来てさらえてくと、われはおさなき心に思いき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たそがれに戸に出ずる二代目のおさなき児等こら、もはや野衾のぶすまおそれなかるべし。もとのかの酒屋の土蔵くらの隣なりし観世物みせもの小屋は、あともとどめずなりて、東警察とか云うもの出来たり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その翼広げたる大きさはとびたぐうべし。野衾のぶすまと云うは蝙蝠こうもり百歳ももとせを経たるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
図書 御天守の三階中壇まで戻りますと、とびばかりおおきさの、野衾のぶすまかと存じます、大蝙蝠おおこうもりの黒い翼に、ともしびあおぎ消されまして、いかにとも、進退度を失いましたにより、灯を頂きに参りました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)