醜悪しゅうあく)” の例文
旧字:醜惡
淫売屋いんばいやから出てくる自然主義者の顔と女郎屋じょろうやから出てくる芸術至上主義者の顔とその表れている醜悪しゅうあくの表情に何らかの高下があるだろうか。
「けれども又異教席のやつらと、異派席の連中とくらべて見たんじゃ又ずっとちがってますね。異教席のやつらときたら、実際どうも醜悪しゅうあくですね。」
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして見たところなんの醜悪しゅうあくなところは一点もこれなく、まったく美点にちている。まず花弁かべんの色がわが眼をきつける、花香かこうがわが鼻をつ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
現実の政治は、決して単に美しい理想や理念や論理や良心のみで行われているのではなく、多分に醜悪しゅうあくで、低劣ていれつで、悪辣あくらつな側面を含んでいるのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
そう思うと、彼は自分の醜悪しゅうあくな人相がおもいやられた。初めて山寺の炉べりで友の夏駿の顔に気づいたあの相貌そうぼうが、今の自分にもあるにちがいないと思った。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巌の憤怒ふんぬは絶頂に達した、およそ学生の喧嘩は双方木剣をもって戦うことを第一とし、格闘を第二とする、刀刃とうじんや銃器をもってすることは下劣げれつであり醜悪しゅうあくであり
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その心の厳しさと広さをもって、彼は人性の醜悪しゅうあくを解するとともに、人性の高貴さをも逸しなかった。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
それが彼の醜悪しゅうあく屈辱くつじょくの過去の記憶を、浄化じょうかするであろうと、彼は信じたのであった。彼は自分のことを、「空想と現実とのいたましき戦いをたたかう勇士ではあるまいか」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
紳士と、くだん田舎漢いなかもので、外道面げどうづらと、鬼のめん。——醜悪しゅうあく絶類ぜつるいである。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まさか英語のアグリー(ugly 醜悪しゅうあく)じゃあるまいね?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
犬はもう憤怒ふんぬに熱狂した、いましも赤はその扁平へんぺいな鼻を地上にたれておおかみのごとき両耳をきっと立てた、かれの醜悪しゅうあくなる面はますます獰猛どうもうを加えてその前肢まえあしを低くしりを高く
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
光一とても絶対に活動写真を見ないではなかった、かれは新聞や雑誌や世間のうわさに高いものを五つ六つは見にいった、だがかれはいつもたえきれないような醜悪しゅうあくを感じて帰るのであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)