那奴あいつ)” の例文
わしにはてんでらんわい。弟子のとこに持つてかつしやれ、那奴あいつは衲の字と来たら、本人の衲よりもよく読み居るからの。」
まる淑女レディ扮装いでたちだ。就中なかんづく今日はめかしてをつたが、何処どこうまい口でもあると見える。那奴あいつしぼられちやかなはん、あれが本当の真綿で首だらう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「可いわい、一ツぐらい貴様に譲ろう。油断をするな、那奴あいつまた白墨一抹いちまつに価するんじゃから。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それぢや私もかつとして、もう我慢が為切れなく成つたから、物も言はずに飛出さうと為る途端に、運悪く又那奴あいつが遣つて来たんぢやありませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「何だ。那奴あいつじゃないか。こないだ鳶が空から取落した奴を、松江の鱸だといって、うまく騙して売りつけてやった、あの露次裏の老ぼれじゃないか。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「一向聞きませんな。那奴あいつ男を引掛けなくても金銭かねにはこまらんでせうから、そんな事は無からうと思ひますが……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「御馳走も結構だが、いつもの一件だね、那奴あいつを一寸見せて貰つた上で、ゆつくり戴きたいもんだね。」
「それ、虫が鳴いている。お前と俺と二人にとって、那奴あいつはむかし馴染だったな。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
さいはひ満谷が今度の文展に出してゐる那奴あいつを売りにかゝらう。」
「やつぱりひたきだつたな。那奴あいつもうやつて来てゐるのか。」
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)