那処あすこ)” の例文
旧字:那處
日光を結構な土地ところと思つたのが間違で、日光には鋳掛いかけ屋の荷物のやうな、ぴか/\した建物があるだけで、那処あすこでは芸術は死んでゐる。
「可けない! 那処あすこに居て下さらなければ可けませんな。何、御免をかうむる? ——可けない! お手間は取せませんから、どうぞ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
遊「君の後曳も口ほどではないよ。この間那処あすこ主翁おやぢがさう言つてゐた、風早さんが後曳を三度なさると新いチョオクが半分なくなる……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それが出来なかつたら、辛棒して芸術座の舞台にでも生れ変る事だ。那処あすこには島田も丸髷もない代りに安価やすでな「西洋」が幕ごとに転がつてゐる。
那処あすこに遠くほん小楊枝こようじほどの棒が見えませう、あれが旗なので、浅黄あさぎに赤い柳条しまの模様まで昭然はつきり見えて、さうして旗竿はたさをさきとび宿とまつてゐるが手に取るやう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
馬来マレイ半島にヅリヤンといふ果物のある事は、一度でも船で那処あすこを通つた事のある人は皆知つてゐる筈だ。
どうかこれからは那処あすこが正念場だといふ事をお考へになつて、貴女の態度を変へていただきたいのです。
その手は女の心の臓を握るには少し頑丈過ぎる程ふとつてゐた。「それから、あくる朝起きぬけに義士の引揚ひきあげを見て、大石を痛罵する所がおまつしやろ、那処あすこつてみたうおまんね。」
「私のつてみたいつて事はね、御覧なさい、那処あすこ煽風器せんぷうきが廻つてるでせう……」と部屋の隅つこにある煽風器を指ざした。「あの煽風器に卵を一つ投げつけてみたいんです。唯それだけでさ。」
「それぢや、那処あすこを見給へ。大事の忘れ物が笑つてゐらつしやる。」
「やあ、那処あすこにいつもの両替りやうかへ屋の寡婦ごけが見える。」