逆捲さかま)” の例文
卓子テエブルの上で、ざざっと鳴出す。窓から、どんどと流込む。——さてもさても夥多おびただしい水らしいが、滝のいきおいもなく、瀬の力があるでもない。落ちても逆捲さかまかず、走ってもほとばしらぬ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桂川の流れは、一時、徒渉としょうの陣馬のせきにせかれて、対岸まで幾条となく白々と逆捲さかまいた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と喜んで居りますると、俄然がぜん一陣の猛風吹き起って、たちま荒浪あらなみと変じました。見る/\うち逆捲さかまく浪に舟は笹の葉を流したる如く、波上はじょうもてあそばれてる様は真に危機一発でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山の方から大きな波が逆捲さかまきつつ折り重なって寄せて来て、いろいろな物を下流へ押し流している、人が畳の上に乗ったり木の枝に掴まったりして助けを呼びながら流れて行くけれども
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
え立てる風と、逆捲さかまく波の間に翻弄ほんろうされているのだから、海に慣れた船人、ことに東西南北どちらへれても大方見当のつくべき海路でありながら、さっぱりその見当がつかないのであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おまけに前夜降雨があって、二の股川の水嵩みずかさがにわかにえ、丸木橋が落ちたりくずれかかったりしていて、激流げきりゅう逆捲さかまく岩の上を飛び飛びに、時には四つ這いに這わないと越えることが出来ない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)