追躡ついじょう)” の例文
無理想で、amoralアモラル である。ねらわずに鉄砲を打つほど危険な事はない。あの男はとうとう追躡ついじょう妄想で自殺してしまった。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
衆蛇追躡ついじょう余りに急だったから、彼ついに絶え入った。旭の光身に当って、翌旦蘇り見れば、かの沢を距つる既に四、五マイル。
人間の廃朽品である乞食に就ても同様で、一たんこれと目ざした乞食に向けては執拗に詮索せんさく追躡ついじょうして行く性分である。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このあいだに家康はしゅびよく退陣し、旗本の人びとも追躡ついじょうする敵を撃退しつつ浜松城下までひきしりぞいた。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
四、五間向うに、数羽のひなとともにたわむれている雷鳥、横合よこあいから不意に案内者が石を投じて、追躡ついじょうしたが、命冥加いのちみょうがの彼らは、遂にあちこちの岩蔭にまぎれてしまう。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
何しろ斯波しば家長らの追躡ついじょう(尾行してくる攻撃)も執拗しつようなので、鎌倉を横に見捨て、ひたむき、東海道を急いだが、ついにあの——箱根竹ノ下合戦には——間に合わなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人を追躡ついじょうして銀明水ぎんめいすいかたわらまで来りしに、吹雪一層烈しく、大に悩み居る折柄、二人は予らに面会をおわりて下るにい、しきりに危険なる由を手真似てまねして引返すべきことをうながせしかば
幼年から数奇すうきな運命は彼の本来の性質の真情を求めるこころを曲げゆがめ、神秘的な美欲や愛欲や智識欲の追躡ついじょうといふやうな方面へ、彼の強鞣な精神力を追ひ込み、その推進力によつて知らぬ間に
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)