追善ついぜん)” の例文
まちの人々は、涙ながらに少年たちの追善ついぜんをやっているとき、富士男はサクラ号のふなばたに立って、きっとあわだつ怒濤どとうをみつめていた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
お隣の赤さんのお追善ついぜんですもの。ほら、放鳥ほうちょうって云うでしょう。あの放鳥をして上げるんだわ。文鳥だってきっと喜んでよ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もし本当に小哥が戻って来たのなら、わたしの手からこのぜにをとってごらん。きっとおまえの追善ついぜん供養をしてあげるよ」
そうして此度こんどの歌舞伎座の興行は昨年の春お亡くなりになった貴方様のお父様、中村珊玉様のお追善ついぜんのためであったこと……なぞでございました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
羅漢寺建立こんりゅう当時から、多くの信仰者が、親の冥福めいふくを祈るためとか、愛児の死の追善ついぜんのためとか、いろいろ仏匠をもっての関係から寄進したものであって
御つきになるなればそれを誰からか、はっきり判断して貰いたがっていた亡友Y——の追善ついぜんのために、是非貴君の御意見というのを聞かせて下さいませんか。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれもこれもみんな自分が馬鹿だから。これからは罪滅つみほろぼしに多くの人の追善ついぜんをはかり、かたわらこの子を育て上げて立派な人にして申しわけを立てねばならぬ。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この製作は、『古流記』に従えば、孝徳帝の皇后間人はしひと皇女ひめみこが帝の追善ついぜんのために企てられたものである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
深川の材木問屋春木屋はるきやの主人治兵衛じへえが、死んだ女房の追善ついぜんに、檀那寺だんなでらなる谷中やなか清養寺せいようじの本堂を修理し、その費用三千両を釣台つりだいに載せて、木場きばから谷中まで送ることになりました。
相続者はその追善ついぜんのために、だれか信頼しんらいのできる人で、精神的な事業に利用したいという人があったら、土地だけでなく、相当の建築費をそえて寄付したいという意向をもらしていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたしはその時新曲の執筆に際して竹婦人ちくふじん玉菊たまぎく追善ついぜん水調子みずぢょうし「ちぎれちぎれの雲見れば」あるいはまた蘭洲らんしゅう追善浮瀬うかぶせの「傘持つほどはなけれども三ツ四ツるる」というような凄艶せいえんなる章句に富んだものを
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それがせめてもの追善ついぜんですよ。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)