転倒てんとう)” の例文
旧字:轉倒
壮平は気が転倒てんとうしてしまって、一語も発することができないで居る。銅鑼は船内を一じゅんして、また元の船首で鳴っていた。出発はもう直ぐだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たぶん親方が帰って来るという考えに気が転倒てんとうしていると考えたらしく、かの女はそのうえしいては問わなかった。
何しろ帰ったその晩の出来事でげすから、両親を初め見世の者ア気が転倒てんとうしてえたんでござんしょう。
そのかいもなく、戦死せんし報知ほうちがあったときには、わたしは、まったく転倒てんとうしてしまった。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
糟谷かすやころすの一ごんを耳にして思わず手をゆるめる。芳輔よしすけは殺せ殺せとさけんで転倒てんとうしながらも、しんに殺さんと覚悟かくごした母の血相けっそうを見ては、たちまち色をえてげだしてしまった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あしたは祭礼さいれいの日というので朝から家じゅうそうがかりで内外のりかたづけやらふるまいの用意にたてきってるさいに、びとを受けたのである。お政はほとんど胸中きょうちゅう転倒てんとうしている。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)