車蓋しゃがい)” の例文
見れば、金華の車蓋しゃがいに、珠簾しゅれんの揺れ鳴る一車がきしみ通って行く。四方翠紗すいしゃ籠屏ろうびょうの裡に、透いて見える絵の如き人は貂蝉ちょうせんであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう言ってお雪ちゃんは、東の空に濛々もうもうと立ちのぼる車蓋しゃがいの如き雲を眺めながら、弁信の法衣ころもの袖にかかるヨナを、しきりに払い除けてやっていました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自ら太政相国だいじょうしょうこくと称し、宮門の出入には、金花の車蓋しゃがいに万珠のれんを垂れこめ、轣音れきおん揺々ようようと、行装の綺羅きらと勢威を内外に誇り示した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠く望めば霊芝れいしの如く、車蓋しゃがいの如く、庭へ出てみると、その高い枝ぶりは気持がいいのですが、この室内では盤崛ばんくつしている太い幹と根元を見るだけで、枝葉は見えないのです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幡旗はんきに埋められて行く車蓋しゃがい白馬はくば金鞍きんあんの親衛隊、数千兵のほこの光など、威風は道をはらい、その美しさは眼もくらむばかりだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手づかみにして、生捕ることも易しと、張任は馬を打ってとびこみ、雑兵には目もくれず、あわや車蓋しゃがいのうえから巨腕をのばそうとしかけた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うすずのなかに黒くぽつんと見える一つの屋根と、そして遠方から見ると、まるで大きな車蓋しゃがいのように見える桑の木。劉備の生れた家なのである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一人の方の襟がみをつかみもどして、菊王が牛の足もとへ叩きつけたとき、車の尻に取ッついた兵どもも、車蓋しゃがいの内からふいに俊基の足蹴を食ッて、左右へまろび落ちていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今もなお、颯々と、当時の清風は車蓋しゃがいを払って東京市の風とはだいぶ味がちがう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの樹は、霊木れいぼくじゃ。この家から必ず貴人が生れる。重々ちょうちょう車蓋しゃがいのような枝が皆、そういってわしへ囁いた。……遠くない、この春。桑の葉が青々とつく頃になると、いい友達が訪ねてくるよ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)