かく)” の例文
追えば追うほど兎種々に走りかくれて犬ために身つかれ心乱れて少しも主命を用いず、故に狩猟の途上兎を見れば中途からかえる事多しと
いとけなき保の廊下に遊嬉いうきするを見る毎に、戯に其臂を執つてこれをむ勢をなした。保は遠く柏軒の来るを望んで逃げかくれたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は少し離れた簷下のきしたに身をかくしてようやく落ち著きを得たが、この落ち著きの中にたちまちひそひそとささやく声が聞えた。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
最初の中は此方こつちから身をかくして、こつそりさういふ土地に出かけて行つたが、後には平気で、はゞで、女を庫裡くりれて来ては泊らせてやつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
家の窓よりは燈火の影洩りたるが、彼の外套着たる姿は其光に照されて、窓の直下に浮び出でぬ。われは葡萄架ぶだうだなの暗き處にかくれ、石に踞して其さまを覗ひ居たり。
わたしは木の背後うしろにでもかくれてゐて、そこから飛び付かうか、木の枝にでも昇つてゐて、そこから飛び降りようかと思ひながら、其儘ぢつとしてすわつてゐました。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
マルガレエテ飛び込み、扉の背後にかくれ、右の示指の尖を脣に当て、隙間より外を窺ふ。
と背中にかくれている子供を引出した。これはちょうど三十年前の閏土と同じような者であるが、それよりずっと痩せ黄ばんで頸のまわりに銀の輪がない。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
口広くして人を丸嚥まるのみにすべく歯大にしてとがれり、これを見て人畜何ぞ戦慄せざらん、日中は暑ければ地下にかくれ夜出て食をもとめ、また河や湖泉に行き水を飲む
時雄はいかにしても苦しいので、突如いきなりその珊瑚樹の蔭に身をかくして、その根本の地上に身をよこたえた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お上さんはほそ指尖ゆびさき上框あがりがまちいて足駄を脱いだ。そして背中の子をすかしつゝ、帳場の奧にかくれた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
われは避けて、とある窓龕さうがんかくれたり。
剪り去った辮子を延ばし始めた者が、幾人か交じっていたが、早くも人中にかくれて彼の目を避けた。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それが突然姿をかくした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この時魯鎮は全く静寂の中に落ち、ただこの暗夜が明日あすに成り変ることを想わせるが、この静寂の中にもなおはしる波がある。別に幾つかの犬がある。これも暗闇にかくれてオーオーと啼く。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)