誰某たれそれ)” の例文
なぜならば誰某たれそれてもらったけれども、ただ未来の安心を説き聞かされて薬を下さらなかったところが、その人は果たして死んでしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
世人は彼女が若き学生等と交際する事をしきりに罵り始めました。中には誰某たれそれが彼女と特に親しいのだというような事を明かに云う人達も出て来ました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
対手あいてにならないが、次第わけは話そう。——それ、弁持の甘き、月府のきさ、誰某たれそれと……久須利苦生の苦きに至るまで、目下、素人堅気輩には用なしだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従来不朽の筆は不朽の人を伝えるもので、人は文に依って伝えらる。つまり誰某たれそれは誰某にって伝えられるのであるから、次第にハッキリしなくなってくる。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
誰某たれそれはいが、行詰ゆきづまつたてに、はくをつけにくのと、おなじだとおもはれると、大変たいへん間違まちがひなんだ。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
世界の人は日本人の誰某たれそれは恩人が獄屋ひとやつながれて非常な苦しみを受けて居るのを知りつつ打棄うちすてて国に帰ってしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
株をすすめられた時、のぼせがちの従兄が親類の誰某たれそれ仲違なかたがいまでして、二度も三度も田地を抵当に入れて、銀行から金を借りた事情を、母親も伝え聞いて知っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夢になら恋人に逢えるときまれば、こりゃ一層いっそ夢にしてしまって、世間で、誰某たれそれは? と尋ねた時、はい、とか何んとか言って、蝶々ちょうちょう二つで、ひらひらなんぞは悟ったものだ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰某たれそれは法王殿下に対して不敬を犯しました、実に不届きなやつでござるとやかましく言い立ててつみのない学者や人民を害すると言い、陰険極まる近臣が沢山あるという話です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
小菊は誰某たれそれと一座で、客は呑み助で夜明かしで呑もうというのを、やっと脱けて来たと、少し怪しい呂律ろれつで弁解するのだったが、それはそんなこともあり、そうでない時もあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
誰某たれそれだね……という工合ぐあいで、その時々の男の名を覚えて、串戯じょうだんのように言うと、病人が
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何を買うにも金を吝々けちけちしないで、米沢町のどこの店に欲しい小紋の羽織が出ているとか、誰某たれそれのしていたような帯が買いたいとか、または半襟はんえり、帯留のような、買ってもらいたいものがあり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)