詩箋しせん)” の例文
「一詩箋しせん後便までに社中の者どもに書かせ差上げ申す可く候。よろづ後便に申しもらし候。頓首とんしゅ。春道様。四月二十日。藍。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
詩箋しせんを持って、文八は、門のそとへ出たが、貼ったほうがいいか、またらざることか、なお迷っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フムと感心のコナシありて、此子このこなか/\話せるワエと、たちま詩箋しせん龍蛇りうだはしり、郵便箱いうびんばこ金玉きんぎよくひゞきあることになるとも、われまた其夜そのよ思寝おもひね和韻わゐんの一をすら/\と感得かんとくして
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
これは居士の家の光景で、その大学の制服を着ている人は夏目漱石君であった。何でも御馳走ごちそうには松山ずしがあったかと思う。詩箋しせんに句を書いたのが席上に散らかっていたようにも思う。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
十五畳あまりの一室は父が生前詩書に親しまれた当時のままになっている。机の上にひろげられた詩箋しせんの上には鼈甲べっこうの眼鏡が亡き人の来るを待つが如く太い片方のつるを立てていた。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ややしばらくしてから怖い物でもさわるように、そっとに乗せて、壺の横に貼ってある詩箋しせんのような文字などを見ていた。そして大きな溜息をつきながら、眼を息子の顔へあげて
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その次ぎ居士を訪問してみると赤や緑や黄や青やの詩箋しせんに二十句ばかりの俳句が記されてあった、それを居士が私に見せて、「これがこの間来た夏目の俳句じゃ。」と言ったことを覚えて居る。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
詩箋しせんは麝香にみて、名花の芯をひらくような薫りがした。貂蝉の筆とみえ、いかにも優しい文字である。呂布は詩を解さないが、何度も読んでいるうちに、その意味だけは分った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)