うわ)” の例文
四月も江戸に滞在して、いろいろな人にも交際して見るうちに、彼はこの想像がごくうわつらなものでしかなかったことを知るようになった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心の中は、掻き毟られるように、痛く悲しかったけれど、うわべは、ただニヤニヤと笑う恋に弱い黒吉だった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
もとはとえば自分の方で呼還よびかえすようにくわだてゝ置きながら、うわべに人をあざむくと云うのは卑劣ひれつ至極なやつだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
利を好み人をねたむこと、漢人と胡人こじんといずれかはなはだしき? 色にふけり財をむさぼること、またいずれかはなはだしき? うわべをぎ去れば畢竟ひっきょうなんらの違いはないはず。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そして私は、前いったように、諸口さんの方から自分に接近して来るのを、巣を張った蜘蛛のように、ジーッと、そのくせうわべは知らん顔をして待っていたのであった……。
もとよりしか穢悪きたなき心もて作りて、人を欺く道なるけにや、後の人のうわべこそ尊み従ひがほにもてなすめれど、まことには一人も守りつとむる人なければ、国の助けとなることもなく
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)