衣嚢ポケット)” の例文
衣嚢ポケットにあるのをでたらめに掴み出して、使小僧の鼻の先に突き出した。手に何を掴んだのかまるで覚えがなかった。見ると、千フランの紙幣だった。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
手巾を出して顏の汗を拭き乍ら、衣嚢ポケットの銀時計を見ると、四時幾分と聞いた發車時刻にもう間がない。急いで盛岡行の赤切符を買つて改札口へ出ると
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
横瀬は、「ひびき」を一本、衣嚢ポケットから出して口にくわえると、火も点けないで、室内をジロジロと、眺めまわした。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たった一間しかない住居のこと、彼の衣嚢ポケットにある一枚の十円札のことなどが、瞬間彼の頭を掠めたのであった。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
誰か、お前から俺があの栓を受取るのを見ていて、人込みを利用して、俺の衣嚢ポケットからったに違いない。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
私はただ衣嚢ポケットの中で小切手を握り締めながら莫迦みたいに妻の背後に佇んでいるにすぎなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
三人目の男は衣嚢ポケットから警察章を出して見せて「吾々は警視庁の刑事だ。すぐに同行するんだ」
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
東野南次は、あわててかじりかけの干し藷を衣嚢ポケット押込おしこんで、グイと反り身になると
そこへ、硝子の破片がある附近の調査を終って、私服の一人が見取図を持って来たが、法水は、その図で何やら包んであるらしい硬い手触りに触れたのみで、すぐ衣嚢ポケットに収め鐘楼におもむいた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
衣嚢ポケットに両手を突っ込んで
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
久我の上衣の衣嚢ポケットから一道の火光が迸った。鉄の焦げる臭いがし、鋭い破裂音が林の中へひびきわたった。いくどもいくどもこだまをかえした。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と云いながら、ルパンは例の室から何物かを持って来たのだろうと考えて、ソッとジャケツの衣嚢ポケットを捜して見たが、そこには何もなかった。その時ルパンは何を聞いたか
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
菊池君は兩手を上衣の衣嚢ポケットに突込んで、「馬鹿な男だ喃。」と吃る樣に云ひ乍ら、悠々と「毎日」を去る。そして其足で直ぐ私の所へ來て、「日報」に入れて呉れないかと頼む。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は、何にも文字の書いてない白紙を卓子テーブルの上に拡げると、衣嚢ポケットの中から、青い液体の入った小さい壜を取出した。そのせんをぬいて紙面に、ふりかけようとした。丁度ちょうど、そのときだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
衣嚢ポケットに両手を突っ込んで
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
椋島技師は、博士の挙動きょどうを静かに注目している。博士は今、何かしゃべっているらしく口を開閉している。やがて一礼をして席についた。博士の右手が、スルリと伸びて、衣嚢ポケットの時計にかかった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小形の聖書が何日でも衣嚢ポケットに入れてあつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
上着の衣嚢ポケットから小さな手帳をだして
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)