行違ゆきちがい)” の例文
職業についても、あんな些細ささい行違ゆきちがいのために愛想あいそづかしをたとい一句でも口にして、自分と田口の敷居を高くするはずではなかったと思う。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此度このたび小生において、買占め置きそうろう貴下に対する債権について、御懇談ごこんだんいたしたきこと有之これありつ先日杉野子爵ししゃくを介して、申上げたる件に付きても、重々の行違ゆきちがい有之これあり
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今も歌ふは当初そのむかし露友ろゆう未亡人ごけなる荻江おぎえのお幾が、かの朝倉での行違ゆきちがいを、おいのすさびにつらねた一ふし三下さんさがり、雨の日を二度の迎に唯だ往き返り那加屋好なかやごのみ濡浴衣ぬれゆかたたしか模様は染違そめちがえ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「だって、我々と行違ゆきちがいに、犯人がこちらへ逃げ出して来たらどうします」技師が云った。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「これには何んか恐ろしい行違ゆきちがいがあるようです。私には何んの事やら一向解りません」
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二人の間に感情の行違ゆきちがいでもある時は、これだけの会話すら交換されなかった。彼は島田の後影うしろかげを見送ったまま黙ってすぐ書斎へ入った。そこで書物も読まず筆も執らずただじっすわっていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)