行詰ゆきつま)” の例文
小林氏は行詰ゆきつまつたやうに、口をもぐもぐさせた。そこへ煎茶茶碗や、吸物椀や、灰落しのやうな、安物の政友会代議士が五六人どやどやと入つて来た。
うながすように言いかけられて、ハタと行詰ゆきつまったらしく、ステッキをコツコツとまたたきひとツ、唇を引緊ひきしめた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はこの難関をどうして通過することが出来たか。僕の素人探偵はそこでハタと行詰ゆきつまってしまった。何かトリックがある。台所の上げ板に類した、人の気づかぬ偽瞞があるに相違ない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うん、すらすらと行詰ゆきつまらずに読んだ。おれはなかなかえらいぞ……今度は綴方つづりかただ。あ、出来た。先生が感心してゐる。今度は習字だ。うまいうまい、おれが一番上手だ……今度は体操だ。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
従来から行詰ゆきつまったままになっております精神病の研究に対して、根本的の革命を起すべき『精神科学』に対する新学説を、敢然として樹立されました、偉大な学者で御座います……と申しましても
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お上人は急に行詰ゆきつまつたやうな表情をして、てれ隠しに一寸空咳からぜきをした。無理もない、中有の野に虫が居るか居ないかといふ事は、どのお経にも書いてなかつた。
大鷲おおわしつばさ打襲うちかさねたるおもむきして、左右から苗代田なわしろだ取詰とりつむる峰のつま一重ひとえ一重ひとえごとに迫って次第に狭く、奥のかた暗く行詰ゆきつまったあたり、ぶッつけなりの茅屋かややの窓は、山が開いたまなこに似て
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小間使は情を解せず、返事に行詰ゆきつまりて無言なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)