蛇腹じゃばら)” の例文
漆喰しっくいの割目から生え伸びているほどで、屋根は傾き塗料は剥げ、雨樋あまどいは壊れ落ちて、蛇腹じゃばらや破風は、海燕の巣で一面に覆われていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
国立銀行ゴスバンクの軒にはりめぐらされた鮮やかな清掃公告のプラカートは、やがて協同組合本部の高い蛇腹じゃばらのまわりにもかかげられた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
朱でいろどられている蛇腹じゃばらなどが、ものすさまじくいきいきとしていて、どちらも、前肢には、宝珠がつかまれている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
銅製の燭台に輝いている青白い火焔ほのおは、あるかなきかの薄い光りを暗い室内に投げて、その光りはあちらこちらに家具や蛇腹じゃばらの壁などを見せていました。
上州じょうしゅう田舎いなかの話である。某日あるひの夕方、一人の農夫が畑から帰っていた。それはの長いくわを肩にして、雁首がんくび蛇腹じゃばらのように叩きつぶした煙管きせるをくわえていた。
棄轎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一枚のむしろを、山伏は、河原へ敷いた。四条大橋裏が、蛇腹じゃばらのように大きく闇へかって、屋根になっている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどそのとき、大きなフクロウが一飛んできて、道ばたの木にとまりました。それを見ると、すぐに、この家の蛇腹じゃばらにとまっていた森のフクロウが話しかけました。
丁々ちょうちょうと点火にとりかかりましたが、手器用に火がつくと、蝋燭ろうそくが燃え出し、鎖を引くと蛇腹じゃばらが現われて、表には桐の紋、その下に「山科光仙林」の五字が油墨あざやかに現われました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて我れにかえって、彼は物珍らしそうに一匹の蜘蛛くもを眺め始めた。蜘蛛はその部屋の古風な蛇腹じゃばらから行きつ戻りつして、巧みに糸を織りまぜながら、いそがしそうに巣を作っていた。
感傷的な建築改革家である彼は蛇腹じゃばらからはじめて、土台からはじめなかった。
コゼットのへやの窓から数尺下の所、壁についてるまっ黒な古い蛇腹じゃばらの中に、つばめの巣が一つあった。巣のふくれた所が蛇腹から少しつき出ていて、上からのぞくとその小さな楽園の中が見られた。
呑まれなよ軒の蛇腹じゃばらに蛙また 一和いちわ
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
顔だけが三尺ほどもあり、蛇腹じゃばらのついた胴の廻りが、やはり三尺、ガラスの大眼玉、棕櫚の頭髪、真鍮のつの、鱗には、薄板を使って、すさまじいばかりの出来栄えであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それから蛇腹じゃばら、また廊下の壁面を貫いている素焼テラコッタの朱線にも、注意を払っていいと思う
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
誰も彼も朝来たときよりは日にやけ、着くずれ、一日じゅうたゆまず鳴っていたガルモーシュカの蛇腹じゃばらはたたまれて肩からつるされ、パンシオン・ソモロフの前の通りを停車場へ向って行った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)