蘇芳すはう)” の例文
冠せた半纏はんてんを取ると、後ろから袈裟掛けさがけに斬られた伊之助は、たつた一刀の下に死んだらしく、蘇芳すはうを浴びたやうになつて居ります。
その牡丹は、けふもまだあちこちに咲き殘つてゐる椿、木瓜ぼけ海棠かいだう、木蓮、蘇芳すはうなどと共に、花好きの妻の母が十年近くも一人で丹精した大事な植木です。
行く春の記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
なにしろ一刀ひとかたなとはまをすものの、むなもとのきずでございますから、死骸しがいのまはりのたけ落葉おちばは、蘇芳すはうみたやうでございます。いえ、はもうながれてはりません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人垣は物のくづれるやうに、ゾロゾロと倒れてゐるお菊の方に移りましたが、蘇芳すはうを浴びた蟲のやうにうごめく斷未魔だんまつまの娘を何うしやうもありません。
さう言へば柳吉の前には、存分に血を吸つて蘇芳すはうけたやうな、木綿物の座布團が一枚あります。
娘は庫裏くりに行つてゐる筈——と、廊下傳ひに行つて見ると、廊下の端つこに、手代の宗次郎が、胸を一と太刀、心の臟をゑぐられて、蘇芳すはうを浴びたやうになつて死んでゐる
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
刺された拍子に轉げ込んだものと見えて、下水の中は蘇芳すはうを流したやうになつて居ります。
さう言はれるといかにも、手摺の親柱に、たくましい細引が縛つたまゝ、その端をダラリと下へ下げて居り、その細引が蘇芳すはうを塗つたやうに、眞赤になつて居るのも不氣味です。
その半面が碧血へきけつを浴びて、喉笛にはまぎれもない喰ひ破つた猛獸の齒型。柘榴ざくろを叩き潰したやうにゑみ割れて、丸い胸のあたりまで蘇芳すはうにひたした凄まじさは、何にたとへやうもありません。
そのうちの幾つかはひさしの下にハミ出して、それが、お安の頭を打つたのでせう、わけても、澤庵たくあんの重しほどの三四貫もあらうと思はれる御影みかげの三角石は、蘇芳すはうを塗つたやうにあけに染んで
右手に持つたのは、銀紙貼りの竹光、それははすつかひに切られて、肩先に薄傷うすでを負はされた上、左の胸のあたりを、したゝかに刺され、蘇芳すはうを浴びたやうになつて、こと切れて居るのでした。
「そんな事までわかりやしませんよ。兎も角、見付けた時のお絹坊の死骸といふのは大變だ。喉笛のどぶえを噛み切つて柘榴ざくろのやうに口を開いてゐる上、顏から胸へかけて、蘇芳すはうを浴びたやうな血だ」
全身蘇芳すはうを浴びたやうになつて死んで居るのです。