藺笠いがさ)” の例文
更にその上へ青い藺笠いがさを被って顔をつつみ、丁字屋の湯女ゆなたちにも羞恥はにがましそうに、奥の離れ座敷に燕のように身を隠します。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「そうそう、藺笠いがさをかぶっておりましたが、年は十五、六、スラリとして、観音かんのんさまがお武家ぶけになってきたようなおすがた」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、耳もふさげず、弁ノ殿とよばれていた日野俊基も、ついには、藺笠いがさかげからキラとその眼を彼のひたいに射むけた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
では——と相談そうだんがまとまって伊那丸は藺笠いがさをしめ、忍剣にんけん禅杖ぜんじょうをもち直し、やおら、そこを立ちかけたせつなである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連れがあったのか? と出方の男が外を見廻すと、青い藺笠いがさかぶった人品のいい侍が、蓮池のほとりに立って、池の水馬みずすましに小石を投げております。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、この二人もたちまち声を消して、奈良街道を、西と東に別れ去ってしまったが、おなじ路傍に脚を休めていた藺笠いがさ膝行袴たっつけの旅の主従も、また
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生田いくたの馬場のくらうまも終ったと見えて、群集の藺笠いがさ市女笠いちめがさなどが、流れにまかす花かのように、暮れかかる夕霞ゆうがすみの道を、城下の方へなだれて帰った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藺笠いがさの旅姿となった船木頼春が、菊王をつれて門を出ると、それは背かっこうまで、日野俊基そっくりに見えた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、知るか知らないか、やがて、あの急な暗やみを、ヒタヒタと小走りに降りてくる姿をすかしてみると、藺笠いがさに振袖、まぎれもない色子姿いろこすがたのお蝶であります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青い藺笠いがさに夏の陽を除けて、春日新九郎が園部の町に入ったのは、その日も日暮れ近かったが、彼は疲れもいとわずすぐその足で、修験者覚明の道場を尋ねて来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曙染あけぼのぞめの小袖に、細身の大小をさし、髪はたぶさい、前髪にはむらさきの布をかけ、更にその上へ青い藺笠いがさかぶって顔をつつみ、丁字屋の湯女ゆなたちにも羞恥はにかましそうに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目でうなずいて、藺笠いがさの美少年は、それへこしをおろした。この公達きんだちこそ、甲州こうしゅう小太郎山こたろうざんの雪のとりでから、はるばる、父勝頼かつより消息しょうそくを都へたずねにきた武田伊那丸たけだいなまるであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅黄あさぎ手甲脚絆てっこうきゃはんをつけ、新しい銀杏形いちょうなり藺笠いがさつえまで、門口に出してある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別なつづらには、蓋を払うと一緒に、青い富士形の藺笠いがさが見えた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大塔ノ宮は、狩猟かり藺笠いがさひょうの皮のはばき、弓を手に。