藪陰やぶかげ)” の例文
雨は止んだが、路は田圃たんぼの様だ。彼は提灯ちょうちんもつけず、更らに路をえらばず、ザブ/\泥水をわたって帰った。新宿から一里半も来た頃、真闇な藪陰やぶかげで真黒な人影に行合うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さてその翌朝あけのあさ、聴水は身支度みじたくなし、里のかたへ出で来つ。此処ここの畠彼処かしこくりやと、日暮るるまで求食あさりしかど、はかばかしき獲物もなければ、尋ねあぐみてある藪陰やぶかげいこひけるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
山里もほおとち、すいかずらの花のころはすでに過ぎ去り、山百合やまゆりにはやや早く、今は藪陰やぶかげなどに顔を見せる蕺草どくだみや谷いっぱいに香気をただよわす空木うつぎなどの季節になって来ている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
目黒不動裏の藪陰やぶかげでございます。門に野犬の皮が干してあるのが、七蔵の家。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
松の下の茱萸ぐみ藪陰やぶかげにねて空を見ている私は、むなしく、いつも切なかった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あれ、藪陰やぶかげ黒鶫くろつぐみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あれ、藪陰やぶかげ黒鶫くろつぐみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)