藤葛ふじかずら)” の例文
前岸かわむこうの巨木からさがった鉄鎖てつさのような藤葛ふじかずらが流れの上に垂れて、そのはしが水のいきおいで下流になびき、またね返って下流に靡いているのが見えた。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
藤葛ふじかずらじ、たにを越えて、ようやく絶頂まで辿りつくと、果たしてそこに一つの草庵があって、道人はつくえに倚り、童子は鶴にたわむれていました。
土地の人とはまるまる疎遠そえんでもなかった。若狭わかさ・越前などでは河原に風呂敷ふろしき油紙の小屋をけてしばらく住み、ことわりをいってその辺の竹や藤葛ふじかずらってわずかの工作をした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いなばの兎の話、鯛の喉から釣り針を取る海神わたつみの宮の話、藤葛ふじかずら衣褌きぬはかまや弓矢に花の咲く春山霞男はるやまのかすみおとこの話、玉が女に化するあめ日矛ひぼこの話、——これらを我々はお伽噺と呼び得ぬであろうか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
土地の者は魏法師のことばに従って、藤葛ふじかずらたにを越えて四明山へ往った。四明山の頂上の松の下に小さな草庵そうあんがあって、一人の老人がつくえによっかかって坐っていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土地の者は魏法師の言葉に従うて、藤葛ふじかずらじ、たにを越えて四明山へ行った。四明山の頂上の松の下に小さな草庵があって、一人の老人がつくえによりかかって坐っていた。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大岩魚はそのあたりの谷川にたまたまいることがあると云われているもので、頭から尻尾しっぽまでが五尺ばかりもあった。人びとはそのあご藤葛ふじかずらをとおして二人がかりでになって来た。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)