おほは)” の例文
元来さう云ふイズムなるものは、便宜上のちになつて批評家に案出されたものなんだから、自分の思想なり感情なりの傾向の全部が、それでおほはれるわけはないでせう。
外には烈風はげしきかぜいかさけびて、樹を鳴し、いへうごかし、砂をき、こいしを飛して、曇れる空ならねど吹揚げらるるほこりおほはれて、一天くらく乱れ、日色につしよくに濁りて、こと物可恐ものおそろしき夕暮の気勢けはひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二十間も座敷の数有る大構おほがまへの内に、唯二人の客を宿せるだに、寂寥さびしさは既に余んぬるを、この深山幽谷の暗夜におほはれたる孤村の片辺かたほとりれる清琴楼の間毎にわたる長廊下は、星の下行く町の小路より
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
全部がおほはれなければそれを肩書にする必要はありますまい。
父が前にかしられて、たやすげぬ彼のおもては熱き涙におほはるるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)