蔭日向かげひなた)” の例文
こうした複雑な、蔭日向かげひなたのある、人と人との戦いの多い、大人の世界の方へ何時の間にか捨吉も出て来たような気がした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(腰をかがめつつ、おさうるがごとくたなそこを挙げて制す)何とも相済まぬ儀じゃ。海の住居すまい難有ありがたさにれて、蔭日向かげひなた、雲の往来ゆききに、うしおの色の変ると同様。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとを濁さないように——というお松の日頃の心がけは、この際に最もよく現われ、いつも蔭日向かげひなたのない与八の心情もまた、こういう際によくうつります。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
徳三郎は、思いのほか素直な人間で、利助が付けた目付役らしくもなく、腹から平次に心服して、蔭日向かげひなたなく働くので、平次もすっかり気をよくしておりましたが——
平「其の方は新参者でも蔭日向かげひなたなくよく働くといって大分だいぶ評判がよく、皆のうけがよいぞ、年頃は二十一二と見えるが、人品ひとがらといい男ぶりといい草履取には惜しいものだな」
まアあなたは親切な人ですことね……お増は蔭日向かげひなたのない憎気のない女ですから、私も仲好くしていたんですが、この頃は何となし私に突き当る様な事ばかし言って、何でもわたしを
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
蔭日向かげひなたなどが思うように行かないので、さらに洋画をやり出したのですが、洋画でも絵は平面のもので、そっくり丸写しに実物を写すには工合が悪いので、今度は彫刻をやり出しました。
歎かひしずむ蔭日向かげひなた、——ああ海のぬし
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
仕事ぶりに蔭日向かげひなたというものがないという点ぐらいは認めてやる者があってもよかろうと思われるが、それすら無いというのは、証跡がかくれてしまっているのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つらを並べて、ひょろひょろと蔭日向かげひなたやぶの前だの、谷戸口やとぐちだの、山の根なんぞを練りながら今の唄を唄いますのが、三人と、五人ずつ、一組や二組ではござりませんで。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この通り蔭日向かげひなたがなかったのですが、こうして旅へ出てみると、この親切さが全く骨身にこたえる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
南はあたたかに、北は寒く、一条路ひとすじみちにも蔭日向かげひなたで、房州も西向にしむきの、館山たてやま北条とは事かわり、その裏側なる前原、鴨川かもがわ、古川、白子しらこ忽戸ごっとなど、就中なかんずく船幽霊ふなゆうれいの千倉が沖、江見和田などの海岸は
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)