蓆囲むしろがこ)” の例文
二人は肩を並べながら、ゆつくり其処まで歩いて行つた。しかし蓆囲むしろがこひの内には、唯鶏の匂のする、おぼろげな光と影ばかりがあつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
型の通りな鯨幕が一文字に張ってあるわきには、小屋主こやぬしの楽屋らしい蓆囲むしろがこいが見え、その前には一本の棒杭を打って、新木の尺板に墨黒々と
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小学時代に、夏が来ると南磧みなみがわらに納涼場が開かれて、河原の砂原に葦簾張よしずばりの氷店や売店が並び、また蓆囲むしろがこいの見世物小屋がその間に高くそびえていた。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今でも収穫の作業を田で片づけるふうがあり、遠くから見通して自然に番のできるところでは、まれには籾を蓆囲むしろがこいにして、田の真中に置いてあるのが、汽車の中からでも眼につくことがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蓆囲むしろがこひの小屋の中に膝と膝と推し合ふて坐つて居るうかどもを竹の窓より覗いてゐる、古洲の尻に附いてうつかりとたたずんでゐるこの時、我手許よりほのおの立ち上るに驚いてうつむいて見れば
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それが、いまわしい女の、しかも蓆囲むしろがこいの楽屋の手道具に、片輪のようにくずされて、いっぱいになって散らかっている!
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夏休みに帰省中、鏡川原かがみがわらの納涼場で、見すぼらしい蓆囲むしろがこいの小屋掛けの中でであった。おりから驟雨しゅううのあとで場内の片すみには川水がピタピタあふれ込んでいた。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
群集の環視かんしにつつまれて、退ッ引きならない破目に立った重蔵と千浪とは、今や、どこまで足許をつけ込んでくるこの無頼ならず者の難題にまったく当惑してしまった。と、蓆囲むしろがこいの蔭から
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこの木戸口の内側に小さな蓆囲むしろがこいの小屋をこしらえて
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この、白粉おしろいによごれた蓆囲むしろがこいの部屋の調度が、すべて、自分の家紋をくずした鷹の羽くずしにうずまっているのを眺めた時、金吾は、言いあらわしようのない自責と侮辱にうたれました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りゅうりゅうと振って蓆囲むしろがこいや仕切り竹を叩き壊しはじめた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)