荒蕪こうぶ)” の例文
彼らは常にペルシア人と戦っており、そしてチョラサン州の美しい平原を荒蕪こうぶとしておく。
仁愛の基礎の上にその国是こくぜを定めんか、或はえいのウイリヤム、ペンを学び、荒蕪こうぶを開き蛮民と和し、純然たる君子国を深森広野の中に建立けんりつせんか、或はべいのピーボデーを学び
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
名状し難い一種荒蕪こうぶな壮観を、地下深くから引き出してその四壁のうちに現われさした。
一度ひとたび破壊されたその跡がここに年を経て折角荒蕪こうぶの詩趣に蔽われた閑地になっている処をば、更に何らかの新しい計画が近い中にこの森とこの雑草とを取払ってしまうであろう。
一つの風景を、もやのふかい空のもとにある、しめった、肥沃ひよくな、広漠こうばくとした熱帯の沼沢地を、島と泥地でいちどろをうかべた水流とから成っている、一種の原始のままの荒蕪こうぶ地を見た。
これまで本陣問屋で庄屋を兼ねるくらいのところは、荒蕪こうぶを切り開いた先祖からの歴史のある旧家に相違ないが、しかしこの際はそういう古い事に拘泥こうでいするなと教えてあるんだよ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本軍の過ぐるところ、残虐きはまり、韓民悉く恐怖して山中に逃避し去り、占領地域に徴発すべき物資なく、使役すべき人夫なく、満目たゞ見る荒蕪こうぶの地、何の用にも立ち申さぬ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それからの彼は一人の下僕をつれ矢立と紙を持って、毎日、この荒蕪こうぶな平野を実地に踏査してみることだった。そして、各村の庄屋を訪ねたり、老農について、体験を聞いてみる事だった。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
家は停車場からかなり遠くて、田んぼと言われてる荒蕪こうぶ地のまん中に孤立していた。セシルはしばしば夜ふけにもどって来た。しかし少しもこわくなかった。危険が起ころうとは思っていなかった。
右手の緩斜かんしゃから前方にかけ、広大な地峡をなしていて、そこは見渡すかぎりの荒蕪こうぶ地だったが、その辺をよく注意してみると、峠の裾寄りのところに、わずかそれと見える一条の小径こみちわかれていた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
玉門関ぎょくもんかんを越えて、太平洋の水域の勢力の限界を一歩出ると、その西は遥かに世界の屋根葱嶺パミールに至るまでのいわゆる支那トルキスタンの地方は、全くの荒蕪こうぶの砂漠と、乾燥し切った岩山との境である。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
河が、この荒蕪こうぶの土地に、多少の滋味を加える。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これまで庄屋で本陣問屋を兼ねるくらいのところは荒蕪こうぶを切り開いた先祖からの歴史のある旧家に相違なく、三百年の宿村しゅくそんの世話と街道の維持とに任じて来たのも、そういう彼らである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう武名とはことなって、江戸在府のころ、下総しもうさの法典ヶ原と申す土地で、土民を育成し、荒蕪こうぶの地を開墾しておるめずらしい心がけの牢人があると耳にして、会ってみたいと、探してみたところ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)