荒事あらごと)” の例文
元来が荒事あらごとに慣れない、無類の臆病者の吉之介は兇行後、現場げんじょうの恐ろしさにふるえ上がって一旦は逃げ出して附近の安宿に泊った。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そんな殺伐なことがまだ戦国時代の血腥ちなまぐさい風の脱け切らぬ江戸ッ子の嗜好しこうに投じて、遂には市川流の荒事あらごとという独特な芸術をすら生んだのだ。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
英人がづ運輸通商の便を計つて新領土の民心を収めようとする遣口やりくち兎角とかく武断の荒事あらごとに偏する日本の新領土経営と比べて大変な相違である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
これと共に公衆の俳優に対する愛情もまたその性質を変じて、たとへば武道荒事あらごとの役者に対してはさなが真個しんこの英雄を崇拝憧憬しょうけいするが如きものとなれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芝居にしても、荒唐無稽こうとうむけい荒事あらごとから自然主義的な人情劇にかわり、明治大正には新劇という少しの芝居もしない自然そのままの芝居になってしまった。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
「わかる、小梅さん、気持はわかる、だけど駄目。茶碗酒の荒事あらごとなんて、あなた、私を殺してからお飲み。」
酒の追憶 (新字新仮名) / 太宰治(著)
江戸歌舞伎えどかぶき荒事あらごとともに、八百八ちょう老若男女ろうにゃくなんにょが、得意中とくいちゅう得意とくいとするところであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さっと門へむかって突きだしたところは……さながら何か荒事あらごとの型にありそう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これはまた大へんな荒事あらごとであって、よほどの豪傑でない限り、これを敢行する勇気が無かった。
酒の追憶 (新字新仮名) / 太宰治(著)
市川家荒事あらごとを始め浄瑠璃じょうるり時代物の人物についてこれを見れば思半おもいなかばすぐるものあるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土蔵破むすめやぶりで江戸中を騒がし長い草鞋を穿いていたまんじの富五郎という荒事あらごと稼人かせぎて、相州鎌倉はおうぎやつざい刀鍛冶かたなかじ不動坊祐貞ふどうぼうすけさだかたへ押し入って召捕られ、伝馬町へ差立てということになったのが