苫舟とまぶね)” の例文
薄月うすづきや」「淋しさや」「音淋し」「藁屋根わらやねや」「静かさや」「苫舟とまぶねや」「帰るさや」「枯蘆かれあしや」など如何やうにもあるべきを
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蕭条たる十一月の浜辺には人影一つなく、黒い上げ汐の上をペラ/\と撫で来る冷風のみが灯りを点けた幾十の苫舟とまぶねを玩具のやうに飜弄してゐた。
無数の苫舟とまぶねかかっている岸辺から、やや大川筋へ下がった所に、また一艘の小舟が、苫をかけて、泊まっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれは苫舟とまぶねの音を聞きながら遠くに墨絵のやうな松の岸辺を見る景色でなくてはならぬ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
殊に三艘の舟の中で、前にある一番大きな舟を苫舟とまぶねにして二十人ばかりも人の押合ふて乗つて居る乗合船を少し沖の方へかいたのが凡趣向でない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蕭条たる十一月の浜べには人影一つなく、黒い上げ汐の上をペラペラとなで来る冷風のみがあかりをつけた幾十の苫舟とまぶねをおもちゃのように翻弄ほんろうしていた。
お粂はいつまで顔をあげず、日本左衛門も黙然もくねん苫舟とまぶねへりに腕ぐみをしたままで、千鳥ヶ浜は更けてゆきます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近頃、岡場所のお取締りがきびしいため、大阪の川筋に苫舟とまぶねをうかべ、江戸の船饅頭ふなまんじゅうやお千代舟などにならった密売女かくしばいたが、おびただしいかたをいたしおる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうづれで下って来た、伊奈半十郎配下の水上見廻りの舟は、忽ち、そこにただよう船影を見つけると、二手に分れて、一艘はお蝶の乗っている苫舟とまぶねへこぎつけ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎は、その群れを、そっと走りぬけて、川尻へ駈けて行き、下の苫舟とまぶねへ向って大声で告げた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい近くの杭に、もう一そうの苫舟とまぶねがあったのである。人もなきかのようであったが、チラと小さい灯がともった。そして弱々しい赤子の声が、ひイっと、水に響いて来たのだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苫舟とまぶねの中の置炬燵おきごたつは、辛く当る風もなく、ぴちゃりぴちゃりと船底をうつ川波の音を聞きながら、手足を蒲団にうずめていると、ほんとに呑気で、いつまでもここを出たくない気がする。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋杭はしぐいのそばの苫舟とまぶねへ駈け寄っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭い苫舟とまぶねの内であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)