艶書ふみ)” の例文
旧字:艷書
兄は或上級生に艶書ふみをつけられたと云って、私に話した事がある。その上級生というのは、兄などよりもずっと年歯上としうえの男であったらしい。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、男のはだは知らない処女の、艶書ふみを書くより恥かしくって、人目を避くる苦労にせたが、やまいこうじて、夜も昼もぼんやりして来た。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大失策おおしっさくをやった、大違おおちげえをやったなア、考えて見りゃア成程うもぬしある女の処から艶書ふみなんぞを持ってちゃア済まねえ、旦那には御恩になっても居りますし
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ心外なるはこの上かの艶書ふみの一条もし浪子より中将に武男に漏れなば大事の便宜たよりを失う恐れあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
文箱ふばこの中から出ましたのは、艶書ふみの束です。奥様は可懐なつかしそうにそれをやわらかな頬にりあてて、一々ひろげて読返しました。中には草花の色もめずに押されたのが入れてある。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
果して卓子ていぶる其他の抽斗ひきだしよりは目科の推量せし通り倉子よりの艶書ふみも出でかつ其写真も出たる上、猶お争われぬだいの証拠と云う可きは血膏ちあぶらの痕を留めしいと鋭き両刃もろはの短剣なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おかめもうとても此のに足を留めている訳にはいかん、殊に証拠の艶書ふみを太左衞門が持って逃出したから必ず役所へ訴え出るに違いない、そうする時は迚も斯うしてはいられないから、己も身を
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何をおっしゃるンです。失敬な。も一度武男の目前まえで言ってごらんなさい。失敬な。男らしく父に相談もせずに、無礼千万な艶書ふみひとにやったりなンぞ……もうこれから決して容赦はしませぬ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あらためたまえ必ず藻西倉子の写真や艶書ふみなどがいって居るから
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)