へさき)” の例文
ただ一呑ひとのみ屏風倒びょうぶだおしくずれんずるすさまじさに、剛気ごうき船子ふなこ啊呀あなやと驚き、かいなの力を失うひまに、へさきはくるりと波にひかれて、船はあやうかたぶきぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たんは若い船頭に命令を与える必要上、ボオトのへさきに陣どっていた。が、命令を与えるよりものべつに僕に話しかけていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時舵手は舵をはなして剣を抜き、流れる浪を切った、力が入りすぎて彼は剣に引かれてよろけた、剣がへさきに坐して橈を把っていた男の耳を削いだ。船中のすべての眼に血があった。
浅瀬に洗う女 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
裸足はだしでとび乗った英夫は、はじめから足の裏の感じで気付いていたが、円い背中のような部分に触れて見ても、全体が鋼鉄で出来ているらしく、それにともへさきも、おなじようにとがっていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
へさきの高い五大力の上には鉢巻をした船頭せんどう一人ひとり一丈余りのを押してゐた。それからおかみさんらしい女が一人御亭主ごていしゆに負けずに竿を差してゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のみならずともには葦原醜男、へさきには須世理姫の乗つてゐる容子も、手にとるやうに見る事が出来た。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの女を見給え。あのへさきすわっている女を。」
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)