だね)” の例文
「妻はのうてもわしとて男でござりますわい。若い時に粗相そそうをしてな。おとだねじゃ、落し胤じゃ。——伜よ。参ろうぞい」
「初めは、おらも、ばくち場でみた気味のわるい浪人の子かと思っていたら、甲州でちょっとべい世話になった、身分のあるお武家のおとだねだそうだ」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その太夫さんは、やんごとなきお方のおとだね、何の仔細しさいがあってか、わたしはよく存じませねど、お身なりを平素ふだんよりはいっそう華美はでやかにお作りなされ、香をいて歌を
西国辺の大名のおとしだねだとか、御家人の娘だとかいろいろに云われる。当人はなんと云われても笑うだけで、いちども自分の口から親たちの素性を話したことはなかった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「安ッ! 貴様は柳生対馬守の落しだねでもあるのか。えらいことになったものだな」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの乞食が大名のおとだねだったりした日にゃ、大変な事になるぜ、ハッハッハッ
「どうです、このの顔は」「おうほんとにいい顔ですな」「平安朝の落しだねですよ、きっとそうです」ぼくの空想ではなくそういうものはこの土地にのこっていていい理由がある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの乞食が大名のおとだねだつたりした日にや、大變な事になるぜ、ハツハツハツ
といって、お角さんそのものが、頼朝公のおとだねだという系図書もなし、何の因縁で土方をどん扱いにするのだか、それは分らないが、存外寛大な土方は、お角が上方見物の途中と聞いて
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんなけさうなのに掛り合ひませんよ。あつしを頼つて轉げ込んだのは、お大名のおとだねのやうなで、お十三、まだお手玉で遊んでゐますよ。いや、その可愛らしいといふことは——」
龍山公のおとだねであるらしい、ということをよそから聞きこんで、これから探りに行こうというその娘が、江戸流の捕物名人塙江漢老人の一子塙郁次郎と許嫁いいなずけの間がらであるというのは奇縁である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)