老躯ろうく)” の例文
しかしそのうち、父親の身辺も非常に急がしくなって、老躯ろうくをひっさげながら壮人とするわけで、勢い子供から手を抜くの外はない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「和氏。老躯ろうく鞭打むちうたせて、ご苦労だったが、使いの功は上々であったぞ。これでまず、義貞もじっとはしておられまい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八重の桜も散りそむる春の末より牡丹ぼたんいまだ開かざる夏の初こそ、老躯ろうく杖をたよりに墓をさぐりに出づべき時節なれ。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのとき、君長ひとこのかみの面前から下がって来た一人の宿禰すくねが、八尋殿やつひろでんを通って贄殿の方へ来た。彼は痼疾こしつの中風症に震える老躯ろうくを数人の使部しぶまもられて、若者の傍まで来ると立ち停った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
明日あした! 明日!」と苦笑して手を振りながら博士は老躯ろうくの腰を叩いて起ち上った。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と来年どころか明日知れぬ八十あまりらしい見るかげも無き老躯ろうくを忘れて呟いているよくの深さに、三人は思わず顔を見合せてあきれ、利左ひとりは、何ともない顔をして小腰をかがめ、婆さま
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのほか父はその老躯ろうくをたびたびここに運んで、成墾に尽力しました。
小作人への告別 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
見ると、美濃みの安八郡あはちごおり曾根そねの城主で、こんどの大戦にあたり、秀吉のために、老躯ろうくをひっさげて、みちの案内に立ち、終始、かれのそばにあった稲葉伊予守入道一鉄いなばいよのかみにゅうどういってつであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう六十に近い老躯ろうくに、この春からの心痛は、余りにも、重くて負い難い気もされる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白足袋のおぼつかない足が、その老躯ろうくを、はらはらと、大玄関の方へ運んで行った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、色を失って、駈けこんで来た八弥は、苦悶に転々する彼の老躯ろうくをかかえ起して
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて、めずらしい客は、渋谷庄司重国などが、老躯ろうくを運んで見えたことである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのにここで、冷静を欠けば、老躯ろうくの父により以上な心労をまたかけ直すことになる。むしろはやく刑をすまして、はれて家に帰り、せめて老後の父の余生を見るにくはないと考えられた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駈けた! 老躯ろうくをわすれて、彼は駈けた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)